史の詩集  Fuhito Fukushima

福島史(ふくしまふひと)の詩集です。

プロローグ 詩人の魂

史(ふひと)独白

 

 もう本人も忘れてしまった遠い日々、必死に書き連ねたであろうノート1冊が、プリントすると、わずか10ページくらいに納まってしまう。そうして、凝縮してしまった日々の重みを、すでに遠く消えてしまった私の細胞を感じ、直すことさえかなわない。今の私にはいとおしくも、もう振り返れない想いを、他人事のようにながめては、ため息をつくのであった。



10-20’sぽえむによせて・・・

 

 これは私のずっと若いとき、あなたがこれから夢を追いかける年齢なら、私がその時期、こんなことを書き連ねていたことを知ってもらうのもいいと思ったのです。

 もう私には必要のないものだけど、同じくらいの年齢の人には、通じるものもあればと思ったのです。1980年頃、10代に書き溜めたものです。





「詩人の魂」

「詩人の魂」 ―10-20’s(ティーンズ)の僕へ捧げる詩



もう私は詩人じゃない

もう私は詩人じゃない

もう私は歌わない

もう私は歌を詠まない

 

遠い遠い昔から 詩人は詩を歌に残してきた

世界中で どの時代も

 

喜びも悲しみ怒りも嘆きもあきらめも

詩人はどこかの誰かの思いを

ことばにして歌い続けてきた

 

その歌を聞いて 僕は育った

その歌を聞いて 僕は生きた

その歌を聞いて 僕は大人になった



まだ私には 歌うべきものがある

まだ私は 歌わなくてはいけない



けれど 僕の歌を聞く人は

けれど 僕の歌を聞いてくれる人は

次々と去っていった

僕の前から 僕の国から 僕の時代から

 

喜びも悲しみ怒りも嘆きもあきらめも

僕は僕の大切な人の思いを

ことばにしようと 歌い続けてきた

 

でも 僕に抱え切れないほどの思いを残して

大切な人は去った いなくなった 死んでしまった

 

僕の大切な人への思いは 溢れんばかりに出づるのに

その思いは 一つもことばになりやしない

その思いは 一つの声に出やしない

 

そして 僕は気づく 僕は詩人なんかじゃなかった



もう私は詩人じゃない

私は歌わなかった 歌えなかった

大切な人々が 私に歌い続けてくれたとき

私はそれをきちんと受け止められなかった

 

僕のまわりの詩人たちは

僕に この世を人生を愛を幸せを 歌い続けてくれた

数え切れないくらい 多くの詩人たちよ

その歌よ 詩よ 声よ

 

僕はただそのことばを思い出して 今は涙するのだ

僕はただその歌を噛みしめつつ もうボロボロになるのだ

そうしてようやく 大切だった人たちの魂にふれる

許しを願うのだ それは魂 まさに 魂となり

彼らは僕の記憶の中に留まっているだけ



だからこそ 私は歌わなくてはいけない

だからこそ 私は声を出し 詩をつくり

歌を歌い続けなくてはいけない

 

願わくば 彼らの奴隷となって

彼らのくれたものを 忘れずに

彼らのいくつかでも伝え残したい



僕は詩人をやめ 詩を詠まず ただ 彼らの魂を祈る

そのために 声を出す 詩をつくる 歌を歌う

そして 詩人の魂は 今日も生きる

詩人たちの知らないところで

 

詩人でなかった人

詩人をやめた人

詩人と気づかない人

そんな人々の中で

詩人の魂は生き続ける

永く 永く いつの世も どこでも

Vol.14−2

31.心流れて

 

流れよ 流れよ 僕の心 君への愛

嵐の後 水は尾を引いて流れた

今まで築きあげた 何もかも

一瞬に流れてしまえ 何もかも

残さないように

 

一つの出会いが 一つの愛が不意に終った

この世に永遠というものはない

信じていた たった一つのものが

音もなく崩れた

 

心は洗われえぐられた

君はもう 僕の心の一部となっていたから

今は欠けた心で僕は君への思慕を忘れる

 

とても重い荷物を下ろしたようで

もっとも大切なものをなくしたようで

悲しいほどに笑いがとまらない

 

人間なんて 愛なんて 人生なんて

何もかも あまりにもろいものだ

 

信じていた たった一人の人が

音もなく 僕の心から 姿を消した

それは いつのことだったのだろう



32.女神の涙

 

美しくも気高き女神といっても

悲しいこともあれば 涙することもある

さりとて 女神は強がり

袖で一振り 悲しみを遠く放っちまう

 

あ~悲しきは 汝よ 女神

その強さが あなたの悲しみ

空色に砕けた涙は

地上に降り 虹色の花と散る

 

その香をかぎし 人間どもは

崇高な理想に恋こがれ

身に余る望みを持ち

汝 女神の姿を一目みたいと

 

さりとて女神は 雲の上

その気配とて 人間の鼻にゃ

かきわけられぬ

人間どもは 土を洗い落とした手で

天へ願う 我らの幸せを

 

さりとて女神は無力

誇り高い微笑で見つめているだけ

太陽は燦然と輝き 無情の土を乾かすとき

女神の目に涙の星



33.未完の物語

 

美麗しい女が 手にろうそくをもって

僕の前で 炎をつけるはずだった

それが 僕の体におさまりきれなかった

リンが宙を青白く 燃えてさまよい

通りがかりの女を連れてきた

この女ではない

けれど 僕はその女と暮らした

(未完)



34.この日 このとき

 

駆け抜けろ 駆け抜けろ

波のはざまを 海に打たれ

風に向かって 砂浜を

 

太陽が沈むまで

星がきらめくまで

残された時間を延ばしたいなら

手でもぎとっていけ

 

まだ明日がくるわけあるまい

もう昨日があったとは

過ぎたことは消えたこと

あるのは 今日 この日 このとき

 

もぎとった時間を投げつけろ

海じゃない 硬い砂にたたきつけろ

更かした分だけ 果汁が飛び散る

 

それを 噛みしめよ

苦味を かみ殺せ

そして 駆け抜けろ 駆け抜けろ

自らを砕き きしんだ肉から

真っ赤な血をはねあげろ

その血は 砂浜にくっきりと残り

やがて 海をまっかに染めるだろう



35.足

 

コンパスが長くなった

空間だけでなく

時間までも ひとまたぎ

うれしいような さびしいような



36.さすらい人

 

あなたの心はどこですか

 

追っても 追っても 追いつかない

恋に目隠しされた私は

両手を伸ばし

あなたを 追い求めるのです

 

走っても 走っても 果てのない

心を閉ざした あなたは

やさしさを枯らし

私の思いを 紙吹雪 舞うのです

 

愛しても 愛しても 報われない

それでも信じて 私は

あなたの心を 思い描き

祈りながら さすらうのです



37.世の中には

 

世の中には

この世のなかには

ただ いい人になろうと

生きている人がいる

 

私は そんなにめでたく

生まれていないから

他人(ひと)に安らぎを与えた夜に

一人になってから 目に一杯

涙をあふれさせる

 

悲しみ 苦しみ 身に余るほど

背負ってしまうときもあるだろう

 

それでも 自分の心を引き締め

ただ ただ  いい人になろうと

生きている人がいる



38.立つと

 

街がにじむ

 

立つと

首うなだれ

肩にぶらさがる手

足はがくがく

 

胃に唾液おち

涸れたのど

くぼんだ目に

街がにじむ

 

言葉知らず

大地に立つと

街がにじむ



39.ALARM CLOOK

 

貴方がぶっきらぼう

昨夜 頼むものだから

私は一睡もせず

あなたを起こした

 

それなのに 貴方は起きようともせず

私は困ってしまって

それでも起こし続けたら

貴方はすっかり怒って

私をたたきつけた

 

私は泣くにも泣けず

じっとしていた

でも 着替え終わった貴方は

やさしく私をいたわってくれた



40.花の伝説

 

少女は待っていた 窓のカーテンを

ほんの少しあけ 通りを眺めていた

 

少女は信じていた ただ一人の男が現れるのを

少女の愛はあまりに強かった まだ見ぬ人を

おそらくは出会えた後よりも深く愛した

 

恋に恋した少女に 一人の男も見えなかった

少女は自分の愛の完璧さをもって男を見ていた

 

そうして いつの日だったのか 春の花盛り

乙女となりし 少女は 自らの内に燃え上がる

恋の炎の熱さに燃え尽き

花の香となって 野原一面に立ち込めた

 

生まれて始めての花の香に

天使がささやいた

赤子は信じた その純なる魂に

理想の人の出現を

 

世を知らずして 恋のとりことなった幼子は

あどけない笑顔で 大人たちを誘惑した

その恐ろしき魔性の魅力に 知らぬうちに

人々の愛は吸い取られてしまうのだった

 

幼女が始めて覚えたのは愛の言葉であった

美しすぎる その茶目気に

誰かも 幼女の言いなりになった

かまってやっているつもりの人は

魂を抜かれたかのように

理性を失って遠くに逝ってしまった



41.散歩

 

僕はいたずらに 言葉を放り投げる

何かに当たって 跳ね返ってこないかと

はっきりとした手ごたえを 体いっぱいに

受け止められないかと

 

春の日のものうさの中に

詩人たちは 散歩する

土手の上 レンゲもナズナ

枯れはてて 青茶色のどぶは滞っている

 

いったい自分の踏んでいるのが

何なのか 足は宙に浮き

手はぶらさがって 頭が先に 先に

何ものかに追い立てられている

 

重いまぶたに むずがゆい頬

裏返った目は 光を殺し

焦点などない

正直になったのは諦念のせい

 

同じように道行く人に あいさつはいらない

地球がまわっている

自分の体で感じられぬ 事実ばかりが

僕をからかう 原始の火の戯れより たちわるく

僕も踊らされている



42.自失

 

ある日 わずらわしい犬どもから逃れようと

駆けまわっているうちに 落とし穴にはまったら

底がなかった ずっとずっと 落ちていった

 

そして全く見知らぬ世界に 僕は現れた

今までの世界から 僕は消えた

僕は義理によって 主役のいない

葬式で簡単に書類上で抹消された

 

僕という人間は消滅した

ハエが一匹 死ぬほどの注意もひかなかった

 

そして僕は全く新しき人間としてそこに現れた

僕に過去はなく 僕を決定づけるすべては

自分の手に握られていた

 

しかし 僕は存在しているのに

それを認められなかった

名前も何もかも すべて僕が一人決めた

僕は自分の存在を 訴え続けなければならなかった

 

顔なじみができ 行き場もできた

そこで僕は わずらわしい犬どもに

いつの間にか 追い越された自分を見た

 

僕は何一つ 自分で創りだせなかった

そして いつの間にか 自分さえ失ってしまった



43.砂場

 

いつかしら 僕の心のそばを行き交う

女の子を見つけたのは

そして いつかしら その女の子が

僕の心の中に入ってきたのは

 

僕の心の中に住みついた女の子

物かげに隠れて こっそりと

こちらを見ていたけれど

僕は少しずつ 自分の心の場所をゆずっていった

 

僕の場所はせまくなり

その子といる場所が

そして その子だけの場所が広がっていった

 

いつかしら 僕の場所は全くなくなった

その子に 占領されてしまったのだ

その子は 僕を追い出した

それさえ 僕は気づかなかった

 

僕はいつも その子といっしょにいる

つもりだったのに

 

いつかしら そこに誰もいないのに

気づいて 戻ってきたのは

その子は どこにもいなかった

めちゃくちゃにバラけてしまった 僕の心

 

僕はようやく一人で 整理しはじめた

いつかしら その子が帰ってくることも

あると夢見ながら

 

僕はいつも その子といっしょにいる

つもりだったのに



Vol.15

詩Vol.15



1.路地とコインと救世使

 

少女から女性になろうとしている子が

すすり泣いているのは 夜の路地です

下宿から吐き出されたのを

両手を上に伸ばして歩いてきた

救世使が気づきました

 

彼の右のポケットにコインが3枚入っています

一枚はちょうど横の自動販売機に搾取されました

ガタンと音がしたとき 少女は一瞬 泣きやみました

 

救世使はジュースを一気に飲み干しました

その子は 膝を抱えて

声を押し殺して泣いています

二枚目が自動販売機に搾取されたとき

少女は顔さえ上げませんでした

 

彼の胃に毒物が落ちていきます

その子は泣きやみません

三枚目を右から左のポケットに移し変え

救世使はその場を立ちました

 

その子はまだ泣いています

救世使のポケットには使わなかった

コインが一枚 入っています

でも そうであろうと なかろうと

朝となり 泣き明かしたその子は消え

いつものように そこは

人ごみにごった返す路地となるのです



2.二十歳の誕生日

 

泥白色の空

街燈の列 列 列

ポリバケツのフタ 転げた

 

湿ったアスファルト

澱んだ空気

地下鉄工事の音

 

美しきバラード

オレンジジュース

口に含んでは吐き出し

胃が脳みそをぐしょぐしょにし

 

歩いているのは 僕の下半身

よろめいているのは 僕の上半身

 

こんなになっても

僕は王者にはなれないのだ

しがない街の一隅に

ヘドを吐いている

誕生日 僕の二十歳が過ぎていく

 

空っぽの缶

飲んだ覚えもなく

空っぽだ

 

カラリン カラリン カランコロン

蹴られちまった缶カラ

錆びつき 朽ちるまで

僕は どれだけ生きるのだろう



3.札

 

札が後方に飛び去った

もう 永久に手にできぬ

その札をやむなく受け取ったとき

僕は生を選んだのか

いや いつの間にか それは

ポケットに入っていたのだ

 

その札に僕を彫りつけぬうち

愛おしさも汗も手垢もつかぬうち

奪われたのだ

 

使い果たしたからだとよ

見てよ まだ新品同様だったじゃないか

ー使用期限二十年間が切れた

 

悲しき罪の象徴 思い浮かぶ風景

美の冷ややかさ 時のうつろひ

感慨失せ 感覚麻痺

成人の札をよこしやがれ!!

いつしか またポケットに入っている

 

ところで神よ

この新たな札

あんまりじゃないか

 

二十よりあと (有効期限不明 途中下車無効)

弱き者は 軌跡に寝ころんで

もう夢を見ている

目ざめるのはきっと

死ぬときだろうよ



4.釣り

 

私は海の辛さと水圧を絶えず

全身に感じ 周遊していた

広い海 同じところは 二度と通れぬ

常に未知と危険に満ち足りた日々だった

 

ある日 えさをつけた釣り糸が

私を誘いにきた

水の上に出てみないかと

空はもっと広い

鳥のように 飛んでみないかと

 

私は初めて飛んだ 宙に舞った

太陽に体が 虹色に光り

水しぶきをあげ その至福をかみしめた

その直後 私の体はがんじがらめにされた

 

そして今 私は釣り竿を垂れている

時はあのときから流れはじめた

私はひたすら 魚のかかるのを

竿に任せて 太陽が半円を描くのを

寝転がって見ている

 

こんなに暑いのに

私は泳げないから

そうしているしかない



5.夢

 

原爆の落ちた日は 熱かった

暑い日に 落とされた

 

生まれるまえのことは すべて神話

幼き頃のことは すべて童話

少年の頃のことは すべて漫画

 

そして今 私は新聞に載っている

 

夢にびっくりして起こされたとき

夢を見ようとして祈って寝たとき

夢は現実の世界で行為していた

 

ところが夢を歩きだそうとしたら

夢はまさに夢のように

とりとめなくなっちまった

なんせしっぽがない

 

つかまえ切れないうちに

夜毎の夢の地図も狭くなった

果たしてこんなんで

夢の名に値いするのか



6.武具

 

僕の強さは 鎧と兜だった

それは貴方が丹念につくったものだった

百戦百勝した武将の心中を誰が察したか

 

己だけが知っている真実

か弱き女子の手で できたもの

それが昨日までの僕だった

今は敗者 価値あるものはすべて

貴方とともに消えた



7.粉雪

 

地に届かぬうちに 消えてしまう粉雪が好きです

なんだか とても 薄命の

悲しみは 夕焼けの色に けぶる稲わら

青紫のうす揺らいだ煙

汽笛は 共鳴した 眉間の奥深くに



8.じっと

 

愛と 気やすく呼ばないで

恋と そんな浮ついたものでないの

真心こめて じっと見つめていてよ



9.海

 

なぜってわからない

ただ 無性に海が見たかった

だから走った 走り続けた

海は 黙っているだろう

でも 教えてくれるだろう

愛を求めないだろう

でも 愛してくれるだろう

 

海は黙っていた

それだけだった

それでよかった



10.ビラ

 

雨の日なのに 世界平和を唱え

ビラをまいている人がいて

 

雨の日だから 無関心に

無視する人がいて

 

雨の日であろうとなかろうと

投げ捨てられたビラを

拾っている人がいる

 

僕は世界平和を唱え

そのビラを踏みつける



11.まだだ

 

疲れちまったと

いってしまえば おしまいだ

生きてゆくことは

ほんとうであるほどに

疲れることだが

その疲れを感じないように

疲れていたいと願う

 

体がへとへとであっても

精神がくたばりそうでも

何かがあると

だから 生きる

生きていられるし

生きねばならない

 

疲れちまったと

ことばに出すのは たやすいし

情けない顔をすると

自己満足を得られるかもしれないね

 

けれど 自分の中にも

そんな弱いものじゃないものが ありそうな

 

心の炎をいつしれず 冷やさぬよう

そんなことばが 出そうになったら

吹っ切ってしまおう

まだ まだだって いっているよ



12.呼び出し音

 

この電話の向こう側で

呼び出し音が

果てしなく続いている

 

僕の思いは

あなたのすぐ手元まで

いっているはずなのに

 

あなたには 届かない

あなたの心は 受け付けない

 

僕はことばにならない

想いを込めたベルを

そっと切る



13.「9」

 

悲しみは 寝起きの気まぐれ

体の奥深く ひそんでいるのは

太古より継がれてきた

肉体の必然か

 

理由も原因も 探すに程遠い

そこまで行くのに 誰もが疲れ

癒される術もない 悲しみを深める

 

ときおり 働く知性

悲しみを癒そうとして

自ら働く こいつが

偽のヴェールをかぶっている

 

要するに 幾何学的 問題だ

コンパスと定規で

きっちり9で割り切れる直径の

円をありうる限り 書き続けよう

 

そのうち それが無数にあることが

わかって 悲しみも

また9で割り切れることがわかったら

気の病いは 9分通り 治るだろう

 

あとの1分 それは最初から

最後までずっとあるものさ



14.反逆

 

とうとうと河の流れのごとく

なりなされ それが無理なら

流れに身を任せなされ

心静かに 仮の世に

慈悲の宿りをしなされと

 

神の悟しも 仏の教えも

わかっているし

そうしたいのは やまやまだけど

人間として生まれたからには

彼らに近づきたくはあれども

人間として生まれたから

よいところの悪いところや

悪いところのよいところも

ばかげたこととの思いになろうと

人間らしく 生きていきたい

 

わがままな情熱

せこましい一念を通すため

人間としての世界で

この世だけ この生だけ

あつかましく 執拗に生きていく



15.若さ

 

若いといわれるが

そう 事実 若いのだ

そういうことだ

それを道を知りながら 歩めぬのが

極悪な人間というものだ



16.ある夏の日々

 

海は夏だった

白く青く くもくも

青く白く もくもく

 

太陽が大洋に眠たいよう

 

浜は夏だった

人はまばらに ばらばら

波は幾腹と なみなみ

 

静かだったけど

動いていた

何もかもが



17.啓示

 

ミューズは気まぐれ

とろりとろりと眠っていては

呼びかける 寝ぼけまなこに

天の啓示と 謹聴しても

それらしきことは ありゃしないさ



18.ある夏の宵

 

夜は更けゆく

雨滴は時をうがち

眠れぬいらだち

夢が誘う

 

悲しき今宵

冷えた体

乾いた口唇

序曲の始まり

 

手を伸ばし

足を伸ばし

まるめたシーツを蹴り

汚れた枕を投げやる



19.土の上

 

海は俺のもの

だけど 泳げない

空は俺のもの

だけど 飛べない

 

今は だから

俺は 土の上で

ひたすら生きる

永遠のあこがれ

かいま見ながら



20.魂

 

魂が燃えるかぎり

煙はのぼり すすは舞う

雑多な俺の魂は

無限の彩りに

小躍りして喜ぶ



21.風船

 

大きな風船 小さな風船

赤い風船 青い風船

色とりどりの風船

 

僕は それを両手で

からめとって

大空に羽ばたくことを夢みて

 

たとえ 太陽の熱で焼けて

まっさかさまに落ちてもよい

空さえ飛べたら

ひたすらに 地球を

我がものにしたい

気持ちだった



22.夕暮れ

 

夕暮れの公園のかごの中で

一人揺られていた

語りかける その人は

一緒に揺られていた

 

自分の心を洗いざらいに

打ち明けて その人の

ことばを聞いていた

 

風の音に

キィーキィーと揺れる

さびしき夕暮れ

思い出を語り

未来を夢み

今を生きる

 

語り尽きたころ

僕は君の視線を強く感じる

 

子供たちが駆け寄ってくる

騒ぎながら

さあ 降りるときがきた

僕は公園を去り 坂道を下る

 

かごに揺られる

子供たちの声に送られて



23.誤算

 

時の軌道に乗り遅れた少年は

大人になりそこねた

積まれてゆく齢のそばで

ただ虚ろに空を見ている

 

俺はどうしても乗れなかった

乗る権利は放棄され

少年は取り残された

俺はそれを選んだのだ

 

されど 少年という名のまま

俺は老いゆき

おちぶれ果て 問うのだ

間違っていたのは

俺だったのか

 

沈黙の中 人々が行きすぎる

その顔は無表情に疲れている

だけど それを眺める俺の顔に

生気はない こんなに早く

くたばるとは思っちゃいなかった

若さまかせの誤算だった



24.海外線の砂上

 

何に僕はこんなに疲れているのだろう

三歩歩きゃ 食って寝て

この上ないほど いい身分

 

僕の上には 空がある

果てしない 空がある

 

雨が上がって 虹が出る

何千の彩りの 虹が出る

 

ぬれそぼれて 僕がいる

海岸線の砂上に 僕がいる

 

地平線は水平線

虹の架け橋

僕は波際を

どこまで駆けられるだろうか

Vol.14−1

詩Vol.14



1.瞳に写らない!

 

目が口ほどにものをいうなら

なぜあなたはわかってくれない

 

僕が穴のあくほど 君を見ても

あなたの瞳に 僕はゆれて 定まらない

 

この僕の目は偽りなのか ガラス玉か

そうなら うれしいけど

 

あなたの瞳にあふれた涙が 僕をぬぐいさる

そして あなたは瞳を閉じる

 

わかっているのです

わかっているのです

 

これだけはどうしようもない

キューピットの未熟な腕前を呪うだけ



2.お迎え ☆

 

母が迎えに来

父が迎えに来

友人が迎えに来

恋人が迎えに来

僕は人生を案内された

 

あれこれ半ば近くにきたのだろうか

なんだか先が見えちまって

僕は座り込んだ

 

父が去りゆき

母が去りゆき

友人が去りゆき

恋人が去りゆき

 

僕はようやく 一人になれた

ずいぶんきて 戻りようなく

僕は天を仰いだ

 

そうだ! 迎えに行こう

 

太陽はカンカンになり

月はシーンとし

空は青ざめ

星はまばたきし

 

そうしているうちに

死神が迎えに来た



3.イスとりゲーム ☆

 

最初 イスをとれなかったら

円の外に出て 

見ていなければいけません

そのあとのゲームは 

最後まで

自分のいないところで

まわっていく

 

疎外されてゆく

仲間が増えていく

他人のなりゆきに

目を注ぐだけ

 

一人落ち 二人落ち

それを喜ぶよ 僕たちは

 

とられちまったのでも

とれなかったのでもない

 

とらなかった人は

いったい そこに最初から

そう生まれついていたのだろうか

 

イスをそろえるための数として

数えられ しかも 自分のイスは

最初から用意されなかった

 

座ったものは

一瞬の勝利を味わう

間もなく

またそこを追われ まわりだす

 

音楽が始まり 突然に止む

それに支配されている 人間たち

それを知りつつも 興じることで

人間的に生きる 悲しき性

 

自分を最後まで 見つけられずに

駆けまわり続ける 勝者たち

最後にイスをとれたとしても

それは自分のものじゃない



4.屋根裏部屋

 

屋根裏部屋でのまどろみは

からっぽの酒瓶 欠けた茶碗

ホコリをたてて ころげていきます

 

大きく深呼吸すると 満ち足りた心

どこかでみた 面影をかすめて

どこまでいくんでしょうか

 

あらら・・・転げているのは

黄色い帽子 バチ

木琴 運動会の赤いタスキ

 

吹かれちまって 吹かれちまって

空へ上がっていくのは 何でしょうね

太陽がまぶしくなかったんでしょうか

 

昼寝を抜け出して

駆けまわりたかったんで

雨の日が 嫌で嫌で

びしょぬれになりたかったんで

水溜りでは まぎれもなく

王者だった人です

 

吹かれちまって 吹かれちまって

空へ上がっていくのは 何でしょうね



5.冬の歴史

 

薪が燃え尽きてしまうのを 見たくなかった

僕は家を後にした

雪に閉ざされた径を この両足で

切り開いていく

 

森林を切り倒してきた人間は

愚かにも ガラス張りでコンクリート

何の役にも立たぬ

ブロック林をつくりあげた

 

野獣を飼いならせなかった人間は

それを殺し ペットを育てあげた



6.君の名

 

ああ 祈りにも似て 君の名を

昼夜 幾度となく唱えた 苦しき

月日は去り 願いのごとく

君を忘れられしは 今

 

人はこれを成長というか

否 平穏なる余生

我が情熱 燃えざる日は疎ましや

 

かつて君を思うて 明け暮れたもう

あのころの我が情熱を 懐かしく思う

我 今だ 二十歳なり

 

人生 花開きゆく 若さなり

されど精神 すでに甚だ老い

大切なものを 忘れ去りゆく

 

早や余生のごとく あの日々を思うだけ

君 もう 我が胸に 帰らずや

我 もう 我が心を 離れずや

 

いとおしい人 今はその名も呼ばず



7.カナリア

 

我が内なる 恋というものやらが

貴方に歩みよって

長話をしていたのかと思っていたら

飛んだ思い違い

 

貴方の外なる恋という魔物が

僕に歩みよって 軽口を叩いていった

 

僕はあなたの歌を忘れたのでなく

あなたへの言葉の一つが歌だった

歌えないカナリアは死んだ方が幸せだろう

だから 僕は生きているのだ



8.愛の死

 

一人の女性の中に 生きていた頃

僕は満たされぬ思いで

二人分の荷物をしょっていた

貴方は知らぬ 単なる僕の独りよがり

 

その僕を支えたのは 報われるという思いでなく

貴方がこの世に生きているという

ただ 偶然の存在への感謝であった

 

貴方は絶対であった

唯一かけがえのない 存在であった

そして 僕の愛も同様だった

 

貴方が去ったのは あまりにしぜんだったから

僕は ただ笑っていた

しかし 愛が去った これは許せぬことだった

僕が死んだに等しいのだから



9.コイン

 

はじけたコインが舞うのを追っていた

貴方の瞳は 僕のこぶしの上にのったか

勝負はつかなかった

コインは床を転がり 視界から消えた

 

貴方は去っていった

それは理解の終焉

 

パイプの煙が青白く 貴方のいた空間を埋め

時の向こうに薄れていく

すべてが燃え尽きたが

鼻につく匂いはなかなか消えなかった

 

それからの僕は貴方の魂を見つめることで

天と地の間にぶら下がっている



10.花

 

美しく咲いた花は

よそ目にみていればよいのか

摘み取ってしまえばよいのか

 

飾られた花は 美として 存在する

美を失せるやいなや 枯れ朽ちるけど

ただ 咲いた花も 美として 存在する

遠目にときたま見るだけだから



11.日の出

 

夜の裾を照れがちに

顔を洗ったばかりの

太陽がめくって

今日が始まる



12.女と少女

 

彼女は女だった

それが誤解の始まり

一見しなやかな身体に

ひきしまった強さがあるのは

少女の誇りだったか

今は知る由もない



13.賭け

 

ダイヤのセブンの上に

今まで生きてきた年月を賭け

カードを引いた

 

五十二分の一 何という確率か

一枚! 僕の過去は投げ出された

テーブルの上に 悪魔と天使が

品を定め始めた

 

素裸の僕は気恥ずかしい思いで

見つめていた 僕の過去

 

こうなってみりゃ どれもこれも

手放すにあまりにもったいないけど

僕は今日から身軽に生きるのだ

 

それが望みだったのではないか

僕を今まで縛ってきたものすべてが

もう消えうせる

 

僕はどうなるのだろう

賭けの成立した時点で 時間はとぎれた

僕はすでに新たなる生を生きている

 

天使が席を立った

「ろくなものはない」

そりゃそうだ 僕の過去など

腐った悪業だらけ

メッキのはげた くず鉄さ

 

僕は僕の戻ってきた過去をいとおしん

悪魔が言った

「今度は君の未来を賭けないかね」



14.飛べ

 

なんて美しいんだ 君は

若さにあふれて

花の間を舞っている

青い空を我がもの顔に

 

羽を休めるでないよ

土のあたたかさに

懐かしみを覚えても

過去に戻るな

飛んでいればいいんだ

 

高く 高く

雲の合間を 君は飛ぶ

飛ぶために生まれてきたのさ

 

若さの尽きるまで

羽ばたき続けるのさ

不安と迷いの中

孤独な飛翔をー

 

羽を休めるでないよ

雨も風も君のために

君に力を与える

日は輝いている

どんなときでも

君が飛んでいるときなら

 

空は広いさ 君がきわめられぬほど

そんなすばらしくも 大きな世界に

君は遠慮なく 羽ばたけばよい

君が恐れるのは 君の甘えだけ

 

高く 高く 大きく 大きく

飛べ!舞え!うたえ!



15.遠い日々

 

僕は歌う 君に語りかける

愛を夢を情熱を

 

同じ星の下に生まれながら

城の中に閉じこもった姫のように

誰の目も避け 人をも愛さず

思うがままに 生きてきた君に

 

書きっぱなしの日記帳

開いてみれば 遠い日々が蘇る

 

あなたがいて 僕がいて

何もなくて すべてがあった

言葉のない詩が 二人の間を奏で

打算のない夢が行き交った

驚くほどの情熱家だった僕

 

それを受けとるのに あまりに幼かった君

時を待てなかった若さが 二人を隔てた

 

捨て切れなかった手紙

忘れ切れなかった 君

今は遠い日々

 

あなたがいなくなって 僕も去り

何でもあるけど すべてはない

もう それほど若くない と思うと

たまらず さびしくなる



16.決意

 

僕はもはや 悩むまい 逃げまい 振り向くまい

どんなに苦しみを早く乗り越えようと考えたって

何もならないなら一層 その苦しみの中に

どっぷりつかって いつまでも のたれまわってやろう

 

人生 たかだか数十年 若さを失いたくなければ

苦しみを逃れようとするな

その中にいるかぎり 僕らは確実に伸び

確実に生きているのだから

 

希望ばかりが高く そこに到達する歩みを忘れるな

星は輝いている それは 自分のためじゃないけど

星の光は何年とかかって我々に届く

星に辿りつけるのは それだけ歩んだ者だけ

でも 誰にでも機会は与えられている

自分で捨てないかぎり

 

素質とか 才能とか 口にするな

すべては努力が決める

早く咲けばよいというものでない

大きく咲くこと だからこそ 辛抱すること

 

ならば今日からは 明るく生きよう

何ともないふりをして 苦しみをかみしめ

表情で弁護するな 陰で苦しめ

他人には他人の生き方がある

僕は僕自身が最高と思う生き方をする

それだけだ

 

今夜はもう休もう 明日のために



17.鬼ごっこ

 

ただ 林を吹きすさび 風の奏でる音色に

耳を傾け ぽっかり広がった空を見ていよう

 

君はいつも無表情だけね

冷ややかな美しさが 僕を捉える

愛想よくなんか する必要などない

心のままにすましていればいい

そういう人だ あなたは

 

あなたを理解するのに 費やした年月が

僕のすべてだった

 

そして 何もかもわかり始めたとき

そのことが あなたを去らせた

せめてもの慰めは 僕がわからぬうちに

あなたが去ったこと 

でも僕は苦しんだ

 

海岸線をあなたは逃げ 僕は追い駆ける

決して捕えやしない 暗黙の約束

あなたが疲れて休んでいる間も

僕は無駄に走りまわった

 

そして 僕が疲れ動けなくなると

あなたは近寄ってくるのだった

限りのない 鬼ごっこ



18.不毛

 

僕らはお互いに知っていた

愛情や情けがどんなに不純であるか

お互いを尊重することは

自分を強くするから 

交えた剣が命取り

戦いは人間をつくり 

愛を壊した

踏み荒らした 

不毛の地で

僕らは花を

咲かせようと

祈った 

だけだった



19.唄うたい

 

すてきな人に出会った ひと目で見抜けなかった

そのやさしさ 僕の罪 誰にだって好みはあるもんだ

それを超えられぬ若さの悲しみ

 

あなたの優しさ 年月が僕に語りかける

人として生まれてきて 人として生きる

生きることの難しさに 気づいても

人として 生きられぬわけじゃない

 

愛は一時のすきまもなく ささやき続ける

それしか知らぬ 僕は気づかなかった

悲しくうちしおかれたときに

あたたかく包んでくれる人がいることを

 

ただ その人がそこにいるだけで

その人が この世に生きているだけで

どれほどの支えになっていただろう

それを気づかせぬほどの大きな存在

 

あなたは今も唱っているのでしょうか

決して大きくはない 自分の世界

それを分かちあって

あなたはますます 大きくなっていく

 

あなたが語りかけるのは 黙っているとき

あなたが聞いてくれるのは さりげない一言

あなたが冷めているのは 内に秘めたあまりの情熱

あなたが夢みるのは 澄んだ瞳を休めるため

あなたが生きているのは 



20.愚痴

 

そうですか まだ若いのですか

僕ですか? とっくの昔に死んだはずですよ

二十歳ですよ もう生きすぎましたよ

無邪気な十年のあとに

無意味な十年はいらなかったのです

 

何もかも 知っちまいましたよ

知は美を壊すのですね

東京の空は晴れていますよ

昔と同じようにね

 

さよならで陽が暮れる

影法師が細い道を歩いて帰る

僕が夢みるのは いつも陽の落ちるとき

空が赤く泣きはらしているときー

 

夢は帰らないのですよ

あの夜空の向こうに 明日はもうないのですよ

 

悲しさも尽きましたよ

涙なんて甘いものですよ

 

人間はなぜ疲れるのでしょうね

くだらないことばかり背負いこんで

いっそ くたばっちまえばいいのに

その割には タフなのですから

 

今はもう さよならを言う人も

いなくなってしまいましたよ

若さなんて 弱いものですね

それだけに支えられてきている

人間ってどうなるんでしょうね

 

そうですよ まだ若いんですよ 僕は

まだ生きていますよ 二十歳ですよ

もう少し生きますよ

幸せすぎた 二十年の余韻としてでなくー

生きられない人の分だけでも

少しはしっかりとね



21.希望をもって

 

希望をもって 生きろですって

なんて辛いお言葉 なまじ希望があるからに

陽の陰った日には どうしようもなく暗くなる

それが人生と申される

 

小さな渦を巻きながら 流れる大河に

人間は なんて滑稽に もがいているのでしょう

当人が真剣であるほどに 辛く苦しいのです

 

そんな試練が必要だと思ってみても

闇の中の迷い子ー 若さが

失われていく音が 静かに響きゆく

 

どこへ どこへゆく

我は語りかける 汝はこたえず

汝は知っていよう 我は知らず

誰も知りやしない 我のみが知る

 

知ってどうなる 知ったら終わりだ

あくなき問いは絶えず

一つの答えも返らず

 

希望をもって生きるですって

なんておもしろいお言葉



22.君は笑った

 

君は笑った 君は笑った

僕の涙を 僕の命を

大人になりゆくことは

男と女の運命は 去りゆくことだと

 

君は笑った 君は笑った

強いて無邪気を装って

笑えない僕の分まで

まだ若いんだ 人生はこれからだと

 

君は笑った 君は笑った

そうすることだけが 圧迫する

沈黙の 悲しい調べを

わずかでもはねのけられると

 

君は笑った 君は笑った

無音で空を赤めている

僕のそばで思い直しては

手に力をこめて

 

君は笑った 君は笑った

こんなこと 私たちには初めてだけど

これからは よくあることなのよと

君の瞳は 潤んでいた



23.春眠

 

春が来まして

すんでのとこで

貴方を忘れるとこでした

 

勉強すると眠くなるのはー

人の体がそれに適していないから

眠いときには眠らねばー

されど教師は怒る

 

僕の責任?

いや 教師の責任

一人のときは

僕の責任?

いや 春風の責任



24.生きる

 

悲しいとき 夢は去り 心は落ち込む

楽しい夢を追いかけ 気持ちを紛らすことの

できないときは 自らの心を慰めて

何もかも忘れてしまいたい

 

それもできないときは のどから手をいれ

すっかり縮んだ心を取り出し

きれいに洗ってしまえばよい

 

悲しいことのあるほどに 心は大きく

人間は深くなる 幸いなるかな

豊かな滋養を受けし人は

 

悲しいときは やはり悲しいもの

身も心も すっかり灰色にくもり

血も青くなってしまう

そんなときは 安らかなる眠りも

おいしい食卓もおあずけとなる

 

夢を追う若さだけが 唯一の支え

それがなくなったら 悲しくならないように

生きるしかないのかしら

 

進んでいるのか 退いているのか

自らの足取りさえも分からず

目的地もうつろとなり

何もかも間違っていたような気がしてくる

 

それでも 生きていることはわかる

生きていれば 必ずよいこともあろう

生きるしかないのだから

生きるしかない

生きるしか

生きる



25.愛の剣

 

君を愛す それは神の気まぐれだった

何らかの運命の糸が続いていて 僕らが

この世で出会ったなら その糸を切ったのは誰だ

 

僕らは情熱の刃石で 愛を研ぎあげた

諸刃の剣 そのつかを二人でしかと握って

僕らの愛を妨げるものは片端から 切り裂いた

 

今や 僕らは自由だった

見渡す限り 草木一本

僕らの目を奪うものはない

残ったのは 砂漠だった

 

僕らは互いを見つめあうばかりだった

ただ一つ 邪魔になったのは 諸刃の剣だった

それを捨てる場所はなかった

極限まで磨き上げられたその剣を見るたびに

僕らは不安になった

 

それを二人で砂に深く突き刺し

その場を離れると剣は わずかの間に

輝きを失い 朽ち果てた

 

君は一言残して 去っていった

あの剣は 互いの胸を突き放してしまうために

あったのでしょうね



26.スポットライト

 

僕は太陽に呼びかける 太陽は神の代理

地上をくまなく照らし 普遍の愛を与える

太陽よ 僕にこたえてくれ 僕だけを

わずかでもよい 照らしてくれ

 

太陽はあまりに偉大だから

ちっぽけな人間たちは 透けて見える

だから 僕は丘に登ろうとした

地上で一番高いところに登ろうとした

 

必死の努力で 太陽の視線をものにしようと

その温かな愛を一人占めしようとした

多くの冒険者は 徐々に限界を感じ

あるいは考えを変え 脱落していた

 

僕は太陽の熱が欲しかった

それで焼かれ死す

人間の栄光を手にしたかった

仲間は次々に倒れていくが

僕は頑なに登った

 

しかし どうしたことだ

太陽は以前にもまして 知らぬ顔をしている

体は冷える一方 登りつめるほどに

呼吸まで困難になっていく

 

僕はとうとう一人になれた

喜びの中で 太陽の至福を受けようと

雲を抜けた

 

しかし そこに太陽はなかった

太陽は地平の果てで

街の人々の顔を 赤らかに照らしていた

 

僕は雪の上に倒れた

誰にもみとられず 冷たく冷え切った

小さな丘の上に



27.罠

 

悪魔は掘った落とし穴のそばで

ずいぶん長い間 頬づえをついて待っていた

神は その粗雑な罠のそばを

微笑んで 行き来した

 

いつの間にか そこに道ができた

大半の人間どもは そこを通った

神の好むような人間は 最初からこの道を避けたので

落ちることはなかった

 

神の意志と悪魔の誘惑に

ふたまたをかけている人間がいた

神は自らの側へと 彼に手をさしのべてはいたので

悪魔は乗り気でなかった

 

その人間は世界を我がものにしようと

善の意志に加え 人間らしき欲望に純粋だった

 

悪魔は 神の手にある希望の灯をねつ造し

若者にちらつかせた

若者はその灯に導かれ

その道をたどっていった

 

神は忠告した それは真の道ではないと

しかし 若者は自己の力を過信していた

必ずや 願望がかなうと

 

若者はただ その灯だけを頼りに歩いていた

そして 若者が唯一の特権である若さを

手放したときだった

悪魔は灯を消した

 

導かれるものは 落とし穴へ転落していった



28.うつろい

 

愛はうつろうもの

広い海ですれ違う 二羽の渡り鳥

君は白鳥 僕はつばめ

嵐の夜 別世界の二人が

 

神のなすところによって

めぐり会った そこまではよかった

 

ところが お互いの世界で

それぞれの分というものを

忘れちまったものだから

すべてがおかしくなっちまった

 

いくら相手を恋しても その人に

なりきろうとすると 自分が壊れるもの

壊れ消えちまったら

どれほどにも 相手を愛せても

愛されるべき 当の自分がいない

 

僕の魂は いつの間にか

あなたの心に吸いとられ

もくずとなった僕の体は

知らぬ間に 吹き飛ばされていた

 

あなたの心で燃え尽きた僕は

もう我が身に甘んじようと

あなたに別れを告げた

されど 僕の魂に帰るところはない

 

体はほろび 悪しきは我身か君か

すべもなく 空は暮れゆく



29.真夏のラブストーリー

 

今 書き終えた一通の手紙

明日 僕の指に固く結んで

すべてが終わる

 

あたかも 僕らの愛が始まったときと同じ

頃は七月 真夏の太陽の季節

熱く 浜を蹴って

永遠の海に飛び込んだ

 

僕らは 沈む太陽を追いかけた

もっと熱く もっと熱く

僕らは燃え続けたかった

 

君の笑顔は波しぶきにはじけ

その声は 青空の天井に響きわたった

僕らは誓った どこまでも太陽を

追いかけていこうと・・・

 

無謀なのはわかっていた

永遠と泳ぎ続けられるはずはない

でも僕は 自信があった

君といれば どんなことでもできると信じていた

 

疲れ果てて 僕らは波の間に漂っていた

太陽は海のかなたに沈んだ

いつ知れず 君の顔も波間に消えた

僕は星まで飛びたかった 君をひっぱって

でも どっぷり浸かっている

 

海にあまりに暗く 重かった

君と二人 飛び込んだ海

太陽は消え 僕らは飲み込まれた



30.子猫

 

一人ぼっちで 僕の部屋に

ひょんなことから迷い込んだ

小さな子猫ちゃん

 

大して邪魔にもならなかったから

軽い気持ちで おいてあげたのが間違いのもと

何を隠そう この子猫ちゃん

大のいたずら好き

 

僕の部屋は前にも増して めちゃくちゃ

とうとう 耐え切れずに

僕は 旅の支度を整えてやった

 

何を思ったか 子猫ちゃん

小さな鈴を一つ 僕に残して

意気悠々と旅だった

 

二、三日は 一息ついたはずの僕の心は

不思議なことに 気が重く 晴れない

ゴロリと寝ころんで 頭に浮かぶは

子猫ちゃん わずかな共同生活

楽しかったことばかり 去りてわかる人の情

 

うまくいかぬは世の常

手元に残った一つの鈴

後悔先にたたず 部屋のものすべては

いつの間にか 子猫ちゃんのもの

 

何を見ても 思い浮かぶは 子猫ちゃん

我ながら 呆れて あんな子猫に

時がうつろえばとは 思ってみても あとの祭り



Vol.13-1

詩Vol.13



1.平和という危機感

 

平和 それは恐ろしき退廃に向かっていく

すべてを緊張状態の均衡に

ぶらさがっていたときにはまだしも

精神の底からの

緊張のない平和な日々なぞ 続くはずがない

恐ろしい 何かが起こる

このままで済むはずがない

 

戦争に初めて破壊された国が

東洋の片隅にありました

その国民は 国をそんなにも

荒廃させてしまった

戦争の恐ろしさを痛感し

武器を捨てました

 

確かに 二度と負けることがないように

武力化し 再び争いに巻き込まれた

歴史上の国より はるかに賢明でした

 

世界の中でわずかに一国

理想を高く掲げた国が生まれたのです

まわりの国々が自らを守ろうと

がんばっているときに

グローバルに視野を広げて

たとえ 押しつけられた理想とはいえ

平和を愛そうとする国が現れたのです

 

それは不思議なことに

もっとも普遍性に富まぬ国でした

ときおり 極端に傾く危険をもった国でした

 

なるほど 平和主義は キリストも頭を下げる

理想であるのは 確かです

しかし あらゆる国は歴史から勉強しました

だから もっとも現実的な手段をとったのです

それは 平和は武力で守るしかないということ

 

その国は真理を悟りました

それはよかったのです

 

ただし まわりの国は その程度のことを

成し遂げるのに 毎年毎年

汗水たらして努力を続けています

 

それなのに その国は まるで理想が

現実に実現したように 何もしていないのです

そんなにたやすく うまくいってよいのでしょうか

たぶん昔も その国のような国がいくつかあったのでしょう

そして まもなく すべて滅びていったのでしょう



2.それは平和ボケさ

 

平和が理想とはどこの国でも知っているのです

世界が一体にならなければ それが実現せぬことも

そして 一体化しても

また同じような問題が生じることも

 

その国の住民は 島国の気質でした

自分の国で理想を現実と成しえたつもりで

この先もよしと思っているのです

 

力のない国が 最初に武器を捨てた

何もできようがないから 何もしないのでしょうか

 

猛獣をしつける努力もせず

ジャングルのまんなかで真っ裸で日光浴して

食べて太って昼寝をして まさに動物なみに生きている

 

日が傾きはじめれば 夜になる

至極 当然の報いを受けましょう

その際も平然としうるほど 高貴な国民なら

それほどすばらしいことはないかもしれません

 

理想を掲げるかぎり 武器を捨てた以上

その国のすべき努力は 並大抵のものではないはずです

 

この平和は退廃です

国亡の前兆です

現実に妥協しない以上

世界を逆流させるほどの

努力をしなければならぬはずです



この国が世界を引っ張る日を待ち望んで

新たな哲学をうちたてよう

すべてが思い過ごしであればよいのですが

私は武器はとらない

だから 努力する

 

忘れていることがある

何もかも この平和の中で

我々は知らずに甘受しているということ

何が平和を支えてきたかということを



3.ひねもす歩いて

 

眠れぬ夜が また明けて

重たい頭に 気だるい体

引きずって 僕は歩くのです

 

フラフラと息苦しく吐き気もするので

今にも気を失ってしまいそうですが

僕は歩くのです

 

何のために ですか わからないのですが

この世に生を受けてしまったので

やっぱり僕は歩くのです

 

空がどんなに明るくて

街がにぎわっていても

いいものは 僕の中に

入ってこないので

僕は歩くのです

 

誰かが声をかけてくれても

信号の目が赤らんでいても

車が止まらなくとも 僕は歩くのです

 

天気はとてもよいようで どうやらひどい

眠気がやっと僕を救ってくれそうで

これから何だか 公園のベンチです



4.ガラスの壁

 

いつか誰かに入られたのかしらない

あるいは 自分で入ったのかもしれない

 

僕らは ガラスのケースの中で

まるで太陽を浴び 大地に足をつけ

自然を呼吸しているかのように

外の景色を眺めていた

 

自ら ガラスを割らぬ限り

よほどの安全が保証されているから

いつでも 思うところに

いけると思っているだけだったから

 

ガラスのケースの中にすっぽり

入っていることなど

ちっとも気づかなかった

 

気づいたときは もう 力も何もない

やはり ガラスなどなかったと思って

開き直るのがよいだろう

 

自由を 大空に求めずに

手にした小鳥は 飛ぶことを忘れた

自由を 森に歌うこともなく

もはや 小鳥でなくなった

 

ケースから 落ちこぼれて 太陽にヤケドしたり

海におぼれたりしている 奴らをみて

僕らは ぎゅうぎゅうのケースに頭をくっつけて笑う

その僕らの頭は ガラスに押し付けられて

さぞや醜く 何とも哀れであろうに



5.業火

 

一つの愛がありました

それが いとキラやかに結晶して

愛は 閉じ込められてしまいました

 

それから 十数年たちました

その中に秘められた賜物は

消えてはいませんでした

 

くすぶり続けていた火は

いつも気まぐれな天使の流れ矢によって

やわらかな体を溶かし 燃え上がらせるのです

炎となって宙に舞い上がるのです

 

そして 運命のかなたに

手をつないでいる人のもとに馳せゆくのです

 

その行方を妨げるあらゆるものを

燃やすほど わがままで傲慢な炎が

その人の前にくると おとなしくなって

青く燃えるのです

 

芯から燃えて 慕いやつれ

それでも けっして

消えたりしないのです

永遠 それとも つかのま

何はともあれ 燃えるのです



6.涙の素

 

ねえ いたずら天使

このハケとビンをあげるから

街ゆく人の瞳を

ぬらしてごらん

 

悲しくなんかならないよ

これは涙なんかじゃないもの

きっと きっと 笑い出すよ

瞳をキラキラ輝かせて

 

ほら いたずら天使

皆いそがしくて

ちょっと目がくもっているだけさ

生きている人の瞳は

輝いているものだから

 

ねえ いたずら天使

街ゆく人の瞳を

ぬらしてごらん

 

そうしたら そうしたら

君は 恋しい天国を忘れられるよ



7.手紙

 

私が家から出ないのは

あなたの気まぐれが

配達されるのを待っているの

どうせと思いながらも

やっぱり期待しながら

 

あなたの手紙を読むとき

気持ちを抑えるの

答案を返してもらうときのように

期待しすぎて がっかりしないように

 

あなたの手紙を読み終えたとき

あなたが これを書くとき

私を思い浮かべてくれたことを

感じるだけで うれしくなるの

 

いつもながらのさりげなさが

いくぶん憎いけど

私を有頂天にさせるような文句に

胸を躍らせぬようにするの

 

あなたの冷たい思いやりを

知っているから



8.悲しみ

 

悲しみが私にうずく

すさんだ心を 吹きさらされぬように

コートの襟元をきつくつかんで歩く

 

悲しみは行き交う

帰り道 人もいないこの街に

誰もが私を見下げた

ふるさとの日のあたたかさを思う

 

悲しみに雪が降り積もる

悲しみは白く染まりゆく

白い悲しみの中に私がいる

悲しみは過去に染まり

明日を塗りつぶす

 

悲しみは たえて止むことなく

新たに降り積もる

重い体から肉をそぎ落とし

骨を抜き 天に召される日がくるとも

 

悲しみは心のたずなを

つかんで離さない

悲しみに 時は過ぎ去り

見送った悲しみに

今日 また 出会う

悲しみの色は

あまりに透き通った白



9.天佑

 

幼子がどんぐりを集めるように

私は言葉をひろう

 

幼子はその無垢ゆえに

集めたどんぐりを何に使おうなど

考えてはいまい

ただ どんぐりが落ちているから集める

 

私もまた 言葉のぎっしりつまった

箱に見向きもせず 木の下を歩き

歩いているうちに 手の中に

つんだ言葉を入れている

 

幼子は手に一杯のどんぐりに

喜びを顔色に示す

私は乏しい言葉に表し

切れぬ感情を手にあまし

悲しみを共にす

 

幼子の手のうちから どうしたはずみが

一個のどんぐりからこぼれる

あわてた幼子は手から

どんぐりをすべてこぼす

そして泣き出す

 

私のとりあわぬ感情と言葉が

どういったことか

結合する瞬間がくる

そのとき 私は悲しみから

一瞬の安らぎを得る

すべてを得て この天佑に感謝する



10.ある朝に

 

あさぼらけ

夜霧が私を目覚めさせた

涙はいつしれずと乾き 朝が来た

空はしだいに明るくなり

やがて あの荘厳なる太陽が上がるであろう

 

私は野道に倒れている

手のうちには いくらか土が握られている

 

夢は見なかったのだ

私はここで 一晩泣いていたのだ

体が切り裂けるほどの大声で

 

それを見かねた夜番の神だろうか

一時の睡魔を疲れに乗じさせた

 

しかし 忘却させるまで

面倒みはよくなかったらしい

 

私は悲しみを新たに胸にし

こみ上げるものを抑えている

 

あなたは白く透き通った天の羽衣をまとい

雲上へ逝き去った

この私をおいて

 

太陽は昇る そして

いつものように朝が来た

その偉大な日課をたたえつつ

悲しく胸を打たれることは

これもちっぽけな 日常茶飯事なのだ



11.冬

 

悲しみが舞い散ってしまったあとの枯れ木は

ひょうひょうと北風に身をならしている

 

恐ろしく純白の新たなる悲しみが降り積もる

なぜか うとまれた 我が身がきしむ冬



12.人生の河

 

新たに生なる者が浮かび

古き老い人が沈む

我らは流れる

時の間の光の中に

 

人生という河の

大きさを見極めた者はいず

我らはただ身をまかす

あまりに大きな河の

わずかな 時の間に

 

河よ 永遠にして不滅の運命に

我らを どこへ導こうとするのか

無数の渓谷から流れ出て

大海へと 向かう河よ

 

それとも 我らはすでに大いなる海の

流れに翻弄されているのか

天から降りてくる魂と天に昇る魂が

輝いているかの光よ

 

太陽よ

われらの河に

美しく映えるものよ

 

夢と希望の中に我らは流れる

何も知らぬまま

ただ河の流れに身をまかせ

我らは流れる



13.君の名

 

君の名を何度書いたことであろう

それが何にもならぬことを知りすぎていても

それをせずには耐えられなくて

ただ むやみやたらに その名を書いて

破って また書いて見つめて

 

思い浮かべ

愚かだからこそ

楽しく

惨めだからこそ

切ない

眠りを奪われた

夜の業

 

君の名を何度叫んだことであろう

その響きがあまりに耳ざわりがよく

その余韻があまりに自然に

わたしの心に欠けがえのないものとなって

ただ 重い胸の底をさらうように

その名を呼び 誰も聞く人もいず

ただ一人 聞いてもらいたい人は

はるかに遠く

 

夢にうなされては つぶやき

目覚めては まず 口もとに

浮かび上がる さしても

どうしたら よいことやら



14.夜の番人

 

背中に夜の重さを一身に負い

つぶされまいと あがいている

眠れるものか この憂愁

つかれちまった この重責

 

朝がくるのが これほど

遠いものなら いっそ

こなければ よい

そうすれば 僕は安らぐだろう

おだやかな眠りを 取り戻すだろう

 

空が明るくなり 日が昇るのを確かめ

人々の声が巷に聞こえると

僕はやっと落ち着く

確かに 今日がきたことと

自分が生きていることに ほっとする

 

安心すると 眠くなるもので

僕は 遠い昔に

見られなくなってしまった夢を

見ようと また むなしく

眠りにつく

陽がおちるまで

人々が家路につくまで



15.花の種

 

人には笑いと喜びと夢を与えましょう

怒りや悲しみや失望は

このノートの中に閉まっておこう

僕はいつも 笑っていれば よいのです

 

夢を分け与えること

それは幸せと同じくらい 大切なもので

どんなに 小さくばらまいても

大きな花を咲かせることがあるのです

 

不幸にして その人の心が肥えてなくとも

何度も何度も いくつもいくつも

巻き続けたら いつか咲くことだって

あるのですから

 

僕は 自分の心の中でしか

花は咲かせられません

でも その花の種を分け与えることは

できるのです

 

そして その種が

花を咲かせるかどうかなど

期待しなくてもよいのです

 

僕にできることは ただ

その種を分け与えること

それが僕の幸せです



16.部屋

 

私が起きるのは

来やしない あなたの手紙を

ポストに確かめにいくため

青い封筒に丁寧に

書かれた私の名前

いまだかつて 私の名が

これほど有効に

使われたことはなかった

 

色あせていくのは

あれから一通も加わらぬ

古い封筒の束

それに書かれた私の名前

あなたの中の私

されど 私の中のあなたは

昔と変わらず 私の命

朝を告げるのだ

 

私が起きているのは

来やしない あなたの電話を

なす術もなく 待っているため

あなたは電話をあまり使わなかったけど

この電話は あなたのために

部屋のいいところにある

 

この電話の叫び声に

私は期待と不安をかきたてられ

あるときは喜び あるときは悲しんだ

でも あなたの声が伝わってくるという

あたりまえのことに どうしてもっと

感謝できなかったのだろう

 

今はあなたのナンバーさえ

用を足さなくなって

部屋の飾りものと化してしまったが

ほこりはかかっていない

 

私が待っているのは

来やしないあなた

玄関の呼び鈴を使わず入ってくる 

私の愛する泥棒

あなたを満足させるものは

あまりに ここには少なすぎた

私の心をもてあそんで

私の心だけ

ここに置き去りにしていった

 

ぬくもりを恋しがる体は

もはや 死にたえ

あなたを思う心だけが

何倍も強くなって生きつづけている

この世に奇跡の起こりうるかという

はかない望みの中に



17.願い

 

涙なんか出やしない

いつものことさ

一人の女が足早に

僕の前を通り過ぎていった

幸せをぶらさげて

 

それだけのことさ

なのに なぜ

こんなに悲しい

 

一人でいるのがつらいからか

二人でいるとわずらわしいのに

この世界は僕には広すぎる

それがわかっていないから

貪欲すぎるのか この僕は

 

何もかも 自分のものにしなけりゃ

おさまらない

されど人間

愛されるべき女たちよ

君は 自由にならない

僕の花壇を踏み荒らす

陽気な妖精よ

あやしい魅力を封じよ

さもなきゃ 僕は

どうでもよくなってしまう

たった一人の気まぐれのために

 

早く行け 二度と現れるな

ただ一つ 置いていけ

僕の心を置いていけ!



18.降誕

 

誰かがどこかを見ていた

流れゆく人生を

遠く離れた虹の上を

天使のような子供たちが

すべっていく

 

楽しそうに楽しそうに

急ぐのではないよ

神の手で 頂上に下ろされた

みどりご

 

しっかりした足を得ても

そこまで また上るのは

不可能なのだ

 

虹が七色に輝き

その子らの紅潮した

微笑みに青い瞳がつぶやく

速い そして 早いー

 

加速された時の流れを

楽しむ無垢なるものよ

ささやくのは 春風だけ

地上の声など 聞こえなくてもよい

 

笑えよ 笑え

天を揺るがすほどの声も

太陽より 明るい笑顔も

たった一度の降誕に

すべっていけ

 

楽しそうに楽しそうに

全速力で!



19.火

 

(白いページが耐えられなくて 僕は書く)

 

からっぽの心が寒すぎて

何やら 火を入れようとした

気をつけねばなりません

舌をこがしたり

のどを焼いたりせぬように

一息にすっと飲み込むのです

 

あれ ま

何やら 口中に戻ってきたよなと

見る間に

鼻の穴から白い煙が ポカポカと

消えちまったんだね

何も燃えるものがないんだもの

仕方ないよ

 

気のせいか

少し温まったのに

火が消えると

また寒くなってきたよ

誰か 火をくださいませんか

太陽のような 不滅の火を



20.夜のひととき

 

(夜中に目が覚めちまった)

 

地球を半分まわして

太陽にたばこをチョイっとつけ

一服して 月に輪をかける

雲を顔にぬり 雷でひげをそって

海をかきまわして

顔をぬぐった

タオルを山にかけておく

氷山を浮かべたジュースで乾杯

偉大にして卑屈なる人間のために!



21.すべては君

 

君のさみしさに僕のさみしさを加えたら

きっと うれしいことが起こるよ

君の冷たい手に僕の冷たい手を添えたら

どちらも あたたかくなるんだよ

 

一匹狼のかっこよさに あこがれて

ただ ひたすら 自由に生きたいと

白い風を追っていったけど

それが なんだったというのだ

 

ふりかえったところに

君がいなくては

ふりかえったところに

君がいるかが すべて

すべて すべて 君しだい



22.遠い悲しみ

 

遠い悲しみを僕は歩く

白く乾ききった道は天の河か

雄大にして崇高なる混沌よ

 

地上が回転する その摩擦で

僕は焼きつきそうだ

青い海も太陽が血で染めた

 

望郷の見晴らし台は崩れて

真っ逆さま 僕は蟻地獄

もがくほどに 砂にのみこまれる

 

悲しみは 夜露の冷たき地に

映えて 星のきらめき

浅はかな 夢をあざわらう

 

遠い悲しみを僕はあるく

ただに歩く

僕は歩く



23.オレンジ

 

酔っぱらったあとには

オレンジがいいのです

 

酔うほどに悲しくなる

人間の性に 頭が鳴るのです

 

昨日までの威厳も権威も

酔っちまえば裏返し

うつろな目には とても

物が見えるのです

 

酔っぱらったあとには

オレンジがいいのです

 

もぎたての甘い香りが

人間に生まれた このひとときを

慰めてくれるでせう



24.白い少女

 

白い少女が走りぬけました

僕の脳裏を

誰かしら

人の眠りを妨げるのは

 

白い少女が立ち止まりました

僕のひからびた心に

いつかしら

そんなことがあったよな

 

白い少女が振りむきました

僕の弾力 失せた胸に

どこかしら

その子が ひきずる風景は

 

白い少女が笑っていました

僕の埋もれた愛を

なぜかしら

今になって あなたが揺れているのは



25.埃

 

埃を吸わずに生きていくには

埃を吸わずに生きていくには

疲れた都会に寄生して

白い幽霊と手をつないで

腹の黒さをひた隠して

 

ああ やだ やだ

 

流れ星が すっと横ぎった

あたら都会の空の希望

むなしく

闇は 暗さを誇張した

 

屋根からポッと雨だれが

安まらぬ心に 追い打ちをかけ

闇は静けさを誇張した



26.あなたの微笑

 

貴方は笑った

貴方は笑った

にこやかに ほほえんだ

 

たかがそれだけのこと

たいしたこともないと

人は言うかもしれない

 

でも

貴方が笑った

貴方が微笑んだ

 

私の心は満たされた

これでよい

これでよい

思い残すことは何もない

 

私は ようやく

ほころびた心をおさえて

貴方のもとを立ち去った



27.落葉

 

言の葉が去りゆく

我が身は突風に舞い

あなたは落葉の行方をみる みる

それも 舞いおえた

落葉だけ

舞い落ちる 落葉



28.時

 

時よ それほどの力を持つおまえが

なぜ これほど 静かに流れていくのか

 

一艘の小舟に 一人揺られて

ぼんやりと 目をつぶっているうちに

太陽はまぶしさを失い

鳥は森に帰り 闇のベール冷ややかに

いつ知れず 月は微笑んでいた

 

海は はるかに遠く僕を待つ

否応なしに 夢を託した

頼りない小舟は

再び あなたのもとに帰ることはない

 

月よ いつまでも 微笑んでいておくれ

何もかも失った 私を

導いておくれ

 

時よ こうなったからには

一気に 押し流しておくれ

かの女(ひと)への思いで

この小舟は沈んじまいそうだから



29.中途半端

 

甘ったるい感傷をこね回して

何だというのです

それで明日が来るのですか

いえ それでも明日がくるのです

 

けだるい憂うつをかき回して

何だというのです

それで昨日が去るのですか

いえ それでも昨日は去るのです

 

若さだけを杖にして

やっぱり僕は生きているのです

ゆりかごに 戻れなければ

墓もない

 

中途半端な人間ばかりが

宙ぶらりんの世の中で

生きているのです

その中の一人なのです

 

僕はこの杖を失ったあと

支えてくれる人がいるかしら

支えてくれるものがあるかしら

僕に勇気があれば この杖で

胸を突いていたでしょうか



30.自由の糸

 

雲の上で神の弟子が操っていたのは

愚かで素行の悪い人間たち

長い長い糸を何本もたらし

人間の身を守っていた

 

ところがある日 愚かさの甚だしきこと

糸の余りに気づいちまった人間が一人

枕の中から ハサミをとりだして

一本残さずぶつぶつ切っちまった

 

最後の一本が切れたとき

それを引っ張っていたのは

なんと神様 ご自身だったもので

ドテンと尻もちをついて しまわれた

 

さて この男 自由になったのは気分

爽快だが それとて 何ら変わりやしない

神様を怒らせただけの損

 

それでも神様は対面をはばかって

やさしい微笑みで その男の手足に再び

糸をかけようと 先を輪にして竿につけて

たらして ねらっていた

 

そこに現れたるが 仕事の暇な

すこぶる 不景気な 死神のおっさん

糸切る手間がいらんからと

さっそく その男に 目をつけた

 

当の本人 何やら まつわりつくものを

切り取ったのは よかったが

さりとて 何かを新たにするわけでもない

結局 糸がついてもついてなくても

何ら変わりはない

 

神様は 釣りをやめるわけにいかず

死神も 連れていく機をうかがって

ともに その男にかかりきりになっていたが

そのうち どちらも嫌になってやめてしまったとさ



31.母なる海

 

浜辺に寝ころんで

海のつぶやきを聞いていた

そのうち涙が 頬をつたったので

手の甲にこぼれる砂に舌をつけた

 

ざらついた味は

青くよどんだ海にそそいだ

はるか上流の岩塩か

それとも 僕の身のさびか

 

海は大きく空は広く

浜辺の砂は無数にきらめく

夜空の星も降る

 

僕はこんなにも小さく

ただ一人 何を呼ぶ

母なる海には もはや戻れぬ悲しみに



32.蝶を追う

 

蝶を追いかけて つまづいて

転んでみたら 血が出てた

草の汁に泥ついて

たんぺでこすったら 涙とまってた

 

起き上がって 追いかけて

走り出したら 痛み消えていた

 

何を追いかけていたのか

あのときの僕はまだ知らなかったし

今の僕はもう忘れてしまった

ただ 何やら 走らなければならなかった

 

追いかけていたのか

追いかけられていたのか

肝心の蝶は とうの昔に死にたえた



33.哀しき世界の王

 

僕の目には これほど

美しいものとみえる この世界は

その隅々まで歌われるのに 耐えるほどの

配慮を怠らなかった 偉大なる天の主の創造物

 

だから 僕の歌うものは ありすぎる

目に映るもの 耳に聞こえるもの

鼻に舌にほおに感じるもの

そして 幾多の乙女子よ

僕は 歌をもって この世界の王となる

あらゆるものが この身にかしずくだろう

 

されど 聞け

この王の悲哀を

誰が王をたたえよう

誰が幸せにほころんだ口元に

その名を 浮かべよう

 

歌われるものが 美しいだけ

歌う者は哀しいのだ

この世があまりに美しすぎて

歌い表わせないのだから



34.明日に生きてきたけど

 

目の前が闇だと思っては

何度 その向こうに世が明けただろう

 

熱く灼けた陽の光の中で

海の底にはいつくばっていた自分が

雲に飛び乗ろうとする

 

ふんわり 浮いている白い雲

すねたときには涙雨

かもめ飛びます 海の上

明日はどこ知れぬ身となれど

浮かぶ雲を止めることはできません

 

こぼれる雨を拾い集めることも

かもめの行き先を知ることもできずに

僕は 明日も生きているでしょう

 

ずいぶんと賢くなったせいで

まっ暗やみは消えました

けれど 明るくすぎる日の光も消えたのです

 

幸いなるかな 中庸に

平凡におだやかに 僕は生きるのです

何かしら もの足りないままに

明日のない日がいつ知れずと

近づいていることだけは 確かです



35.あこがれキャッチ

 

遠いあこがれだった

幼い僕は走りつづけた

果てもしない砂漠

 

何度も足をとられそうになった

何度も転び、そのつど、立ち上がり

そして 手を前にのばし

全力で追いかけた

 

貴方は僕の前を走っていた

遠い遠いところへ行こうとしていた

僕がどんなに叫んでも聞こえなかった

貴方が消えるのが恐ろしくて

いつもいつも僕は貴方を追っていた

 

貴方はときどき からかうような

微笑を浮かべて 僕を振り向いた

僕はそれに励まされたように

 

力を振りしぼって 止まらない

貴方を追いかけた

 

僕は少しずつ 少しずつ 貴方に近づいた

僕が早くなったのか 貴方が遅くなったのか

貴方は楽しそうだった

僕はそれにも増して楽しかった

 

貴方のほおが赤く染まった

僕らの影は 夕陽に長びき

僕は貴方の影に追いついた

 

もう幼くはないと気づいたとき

貴方は消えてしまった



36.抵抗

 

あれは精一杯の抵抗だったのです

僕の心が 貴方から離れていく

永遠の愛を誓い信じた僕の

最後のあがきだったのです

 

貴方は一度も振り向いてくれなかった

この愛の重みは全て

僕の両手にかかっていました

それを天に持ち上げるほどに

僕の情熱は強かったのです

かつては それほどに

 

貴方をつれなく思い 恨んで離れようと

すれば するほど かえって僕は

貴方の存在を大きくしていったのです

一生貴方から逃れられぬのを 悟った僕は

(あのころは、僕の全生活になっていました)

貴方と心中する決心をとうにつけていたのです

 

貴方を傷つけず 僕が生きるために

 

それが 醒めちまったら 夢のよう

空虚な心のどこに 貴方はもぐりこんだのか

耐え切れぬ この悲しみに

僕は歌を捧げます

 

今ごろ 貴方は相変わらず

僕の健闘を 茶目っ気たっぷりの微笑浮かべ

あきれてみているのでしょう

 

でも 違うのです 真実は 真実は

 

あれは精一杯の抵抗だったのです



37.双飛

 

か弱き白き裸手を力の限り

抱きしめてみん

そは 我が離れ身なれば

 

何を思いたまふ

何を見つめたまふ

その瞳に我はゆらめけど

 

汝か弱き者に一つの魂

寂しき世を共に生き耐えと

年月が 与われた

 

安らぐがよい 我が胸で

我もまた 汝のものなれば

何もかも忘れて

 

そうして 羽を伸ばし飛ぼうとも

広すぎる この空は



38.別離

 

僕らは走りつづけた

星にせかされた

夜空が恐ろしかった

音だけが 聞こえていた

 

貴方の笑い声も いつの間にか

消えていた それでも 僕は走りつづけた

それが 生の証であるかのように

空がぼんやり明るんできた

疲れきった重いまぶたを 開けてみた

 

僕の前に貴方はいなかった

僕の横にもいなかった

恐る 恐る 振り向いた

僕の後ろに はるか後ろに

一人の女が 倒れていた

 

あなたと確かめるのが 恐ろしくて

振り向かず 僕は精魂尽きるほど

思い切って走りつづけた

 

陽は 僕の前をのぼっていく

昨日は後ろに取り残され 今日が始まる

僕はわけもなく こぼれる涙を

風に切って 走りつづけた

今度は太陽に向かって



39.スワンソング

 

青虫がサナギが蝶になれず

死んでしまった

それは悲しいことなのでしょうか

美しい蝶が蜘蛛の巣で もがき 力果てる

それは 美しいことなのでしょうか

 

人間はどうやら アヒルの子のようです

失っていくものばかりが多くて

よいものは よさそうなものに

置き換わっていく

歳 経るごとに

成長するとともに そうなる

 

でも 純粋な魂が 汚されましょうか

やわらかい光に 輝くダイヤモンドは

強いから 美しいのです

 

白鳥となりて 飛ぶには

白鳥となりて 飛ぶには

人間は まだまだ 賢すぎます



40.あこがれ

 

海にあこがれていた

森の大木からこぼれた葉 一枚が

急流にもまれて 下っていきます

ちょっと気をゆるしたときの

風の吹きまわし

 

どこかに落ち着きたくとも

流れに任せるしかないときもあります

 

枝を離れたことは 果たして自由だったのか

日の光をまぶしいと思ったときには

流れはゆるやかになりました

両岸は段々離れていきました

 

木の葉は予感しました

冒険の成功を 海の香りを嗅げるんだ

 

ところが 中州に打ち上げられた 木の葉は

まもなく生気を失して乾燥し

風にもまれ ちりぢりと

散っていきました

 

たどり着けなかった海まで



41.死の権利

 

死んじまった貝は 焼いて食えません

ただ 土に戻るよう 埋めるだけ

 

生きている限り 死ぬことはできるのです

死がくるより早く 死に向かいさえすれば

逃げようとしても 死神はホウキより早いのです

 

生気を胸に十字架で架け

死神から奪うのです

死する権利を



42.何もないからひびく

 

君は悲しい顔をしていた

何がつらいのー?

「何でもないんです ただ」

 ただー?

「わからないんです」

 何がー?

「何もかもです」

 何もかもー?

 

物事には わけがあるものとは限りません

何もない 心がポカリと

抜けてしまったとき

そこを気まぐれな風が

心の鈴の音をかき鳴らすこともあるのです

 

チリーン リーン リーンと

大きな物音よりも かすかに震える

微弱な鈴の音の方が

心にいたく ひびくものです



43.うさぎの死

 

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