史の詩集(続)Fuhito Fukushima

福島史(ふくしまふひと)の詩集の続きです。

VOL.5 586〜595

86.遅すぎた秋

 

愛かもしれぬと 気づいたときは

おかしくって おかしくって

古い思い出に しばられて

本当の僕の心は 飛んでしまった

 

夜空の下の 田んぼ道

笑いながら 送ってあげた

君だから 送ってあげた

僕は照れてしまっていただろうか

 

想い出は そうなりそうに思う幸せなときよりも

ふと見過ごしてしまいそうなとき

そのときは 何でもないことが多いもの

 

といった君のことばがようやく

わかったのは 遅すぎた秋



87.砂時計

 

時が刻まれていく 

私には見える

砂時計の一粒の砂が

糸を引いて落ちていく

 

その一粒一粒は お互いに

何の関係もない砂

その中に時間が生きている

 

砂が全部落ちてしまったよ

もうその砂時計は 終わりです

 

砂時計は ひっくり返すことを

あてにして 使ってはいけないのです

 

砂はもう さっきの砂でないのです

それは 違う人生なのです

そんなに早く 今の自分を捨てていいのですか

 

砂を見つめなさい

じっと ずっと そっと

そうすれば その連なりの中から

一粒一粒の砂が見えてきます

 

その砂の数だけ 確実に数えなさい

とばしたり 見誤ったりしないで

少し見失っても またすぐに見つめなおしなさい

その砂は ただ 落ちるだけですから

何の心配もありません

 

確実にゆっくりと残り少なくなるのが

わかっているのですから

それが人生です

ひっくり返せない 砂時計です



88.夢想

 

こんな夜に眠ろうとするのは 

無理なことです

眠ってしまえばすべて 

忘れられるだろうなんて

思わないことです

 

別れということばが 

美しいものとは思わないけど

思ったほど苦いものでもなかった

 

ただ 何がほろ苦いものが

どうにも消えなくて

ときおり心が重くなる

 

悲しみ一つ 捨てておいたら

いつか もう一度 通るときに

どこかで一度 見たような

懐かしい気持ちになるだろう

 

遠い空の下に

思いをはせてみても

むなしい むなしい

一人っきり

誰も 振り返ってくれない

ただ あなたがいる

 

灰色の世界の中に

いくらもがいても わかってもらえない

誰も知らぬふり

それでも あなたを信じてる

 

愛という名のおべっかつかいは

君をダメにしてしまう

なんとなく分かっている

それでなぜ愛といえるのか

 

遠い夢の夜空に

輝いている星さえ

たどりついてみれば

ただの燃えるガス

 

それでも うらやましい

それでも いいじゃないか

僕は そこまでいけないし

ましてや そんなに燃えられないから

なぜ なぜ なぜ



89.海と少年

 

少年は海で育った だから 海を知っていた

それを渡るのが 少年の夢だった

 

心の中で海は静かに広がっていた

少年にとって 少年の毎日

すべてそのための準備だった

 

どちらかといえば もの足りないものだった

自分の夢がいともたやすく

達成されやしないかと恐れた

少年は自分の力を過信しすぎていた

 

いや 恐れが否応なしに

少年をそうしてしまった

そう考えた方が 少年はまだ安心できた

 

少年は海の恐ろしさを知っていた

そして いつの間にか 波紋にただよう

自分を見ていた 息たえて

 

しかし 少年は その夢をすてきれなかった

その夢がために 生きてきた

自分の存在は そうしなければありえなかった

 

少年は知っていた 海にゆく人の多くが

いともたやすく 海のもずくとなったことを

少年は知っていた 彼らが地についたものを

持たなかったからだと

 

少年は海を描いていた

あの空の向うに 自分の世界があると

少年はその世界は自分が作ったものだと

かたく信じていた 

 

だから その世界が

自分をつくったことに気づかなかった



90.砂と少年

 

少年は砂を握った

強く握るほど 砂はこぼれた

少年は そこに砂があることが不満だった

それまで出会ったすべてのものを

少年は自分の心で説明できた

 

それまで何にでも自分を見いだしてきた

少年が手を触れて

そこに自分がいないものはなかった

少年はこの世のすべての心は

一つのものから派生していると思っていた

 

だから少年はまだわからなかった

何度つかんでも こぼれ落ちる

それは砂も例外ではなかった

 

少年はいつものように考えるのだった

そいつは自分を相手にしてないんだ なぜだ

そして同じだと信じて疑わなかった

砂がこぼれて 同じことを繰り返すのだった

 

僕の手のひらが嫌いなのですか

日が暮れると 空っぽの手をみつめ

またいじけた感傷を残して背を向けるのだった

少年はそういう感傷を昔から愛していた

 

砂はただ 黙ってこぼれてしまう

放っておくと 一粒も残らなくなる

それがいやなので またつかむ

その繰り返ししか なかった

 

少年は自分の心で説明できぬものには

素直に従った



91.海と砂と少年

 

少年は幼いときから 海をわたるために生きてきた

だから 砂は砂以上の意味はもたなかった

しかし 少年はどうしても それを知りたかった

海に出るまでには いくたの砂を

踏まなければならないからだ

 

いつの間にか少年には 砂が砂丘のように広がっていた

砂の方が 海よりも恐ろしく思われることもあった

 

いつも通り 感傷にひたったあとだった

少年の前に一筋の光が通った 

そのとき 砂を通して海がみえた

 

そして 砂の向こうに海がみえた

少年ははじめて海が 

それほど広く深いものだと知った

海を渡るには 一人で底をしっかりと

踏みしめていかなければならない

それが少年の理想であった

少年の人生は そのための努力だった

 

「地に足をつけないから 誰も渡れなかったんだ」

静かな海しか 知らない少年は

海底の砂に触れてこそ 海がわかると信じていた

 

けれど真実は逆だった

海底には闇しかなかった

 

少年の期待したことは 間違ってはいなかった

しかし 海を知らないものには

それは闇以外の何でもないので

 

海をわたるためには

北極星についていかなければならないのだ

天空に上った星を追いかけねば

 

少年は知らなかった

海底の砂には 白い骨

 

少年はもう どうすることもできなかった

自分の力のなんという卑小さ

海のもずくになることに 美があるものか

 

少年にとって砂はもう何でもなかった

そのとき 少年の心に海が通った

 

道なきところを行くものは

足を止めることなかれ

やすらぎの水

死すとも来たらず

永遠に



92.さすらいぼう

 

一人ぼっちのさすらいぼうが

しなびた葉っぱくわえて立っている

 

行くあてはないー

だけど 帰るところもない

 

一日さまよい歩いて

同じ木の下で 夕日をみている

 

あれが沈みゃ 今日は去る

あれが上りゃ 明日がくる

 

今日は何をしたのかと 夜ごと

思い出した日は

明日は何をしようかと 夜ごと

考え出した日は

 

あれを沈めりゃ 今日が去る

あれを上らしゃ 明日が来る

 

にがい葉っぱをくわえて立っている

高い木の上で 夕日をみている



93.月とコーヒーカップ

 

月がくっきりと

夜のブラックから切り出されて

白く黄っぽいもやに

ほんわりと浮かんでいる

 

夜が更けゆくにつれて

月は 赤く沈んでしまった

太陽の栄華をうつしつつ

 

はかない夢に希望を

自分もいつかきっとそうなれると

 

やせていても豊満であっても

月は月でしかなかった

自分のものは何もなかった

 

月はこまごまと壊れ

四角く切り出され 

白い粉になって

コーヒーカップの中に沈んでいった





94.偉大なもの

 

太陽は昨日みたときよりも

ずっと小さく遠く うすく赤味がかっていた

冬眠を終えた そんな寝ぼけかかったものでなく

強くはげしいものだった

本物であった

そこに偉大さがあった

 

太陽は消えていった

その姿は どこにもみえなかった

真に偉大なものは

姿を 威厳を押し付ける必要はない

ただ 出番と終わりに

その華麗さを一袖見せれば



95太陽になりたかった月 (93,94別バージョン)

 

月がくっきりと 

夜のブラックから切り出されて

黄っぽいモヤに ほんわりと

それがこの全世界を支配する

 

夜が更けゆくにつれて

赤く沈んでしまった

太陽の栄華を抱き

 

そのはかない夢に希望を

自分もいつかきっとそうなれると

やせていても豊満であってもと

 

月は月でしかなかった

自分のものは何も届かなかった

 

月はこまごまと壊れ

白い粉になって

コーヒーカップの中に沈んでいた

 

自分の体がとけていくのは 朝だからか

太陽は昨日みたときよりも

ずっと小さく遠く うすく赤味がかっていた

冬眠を終えたように 寝ぼけかかったのに

 

より強くはげしいものだった

本物であった

ただ登る そこに偉大さがあった

 

いつ知れず 太陽は消えていった

その姿はどこにもみえなかった

 

真に偉大なものは

姿を 威厳を押し付けない

ただ 出番と終わりに

その華麗さを一振り見せればすむ

去りしとき      584

去りしとき

 

年月経てば 過ぎ去ったことは

消えゆくはずなのに

忘れられぬばかりか

ますます強く心もえぐる

 

気づかずによいことに

気づいてしまった

 

年月は流れ 人は去り

どうすることもできない

 

あのとき気づいていれば

どんなに幸せになっただろうに

うっかりと見過ごしてしまった

 

戯れの気持ちは

恋よりも愛に近いなんて

ふざけて送った毎日が

遠ざかりし 

愛の日々だったなんて

誰が知りえましょうか

 

悪縁だったといいながら

運命の神には恵まれていた

 

あまり恵まれすぎていたため

君を求めることもなく

愛を知ることもなかった



 

小石ころころ     583

小石ころころ

 

道端に転がっている小石にも

それぞれ心あり 思いもあります

その小石が

たとえば 愛を語ったり

夢を抱いたりすることもあるでしょう

 

小石にすぎた身分なんていわないでください

飾り気のない小石は 

誰よりも純で素直なのです

 

心を隠すなんてことはしないけど

誰も心をわかってくれないのです

 

たとえば 小石はみんな同じなんて

へんな平等思想を持っている人は

小石がいかに一つひとつ個性的な

顔をもっていることを知らないのです

 

あるいは 小石なんて存在を

気にかけたことのない人は

ごちゃごちゃにくだいた砂利を

思い浮かべるのです

 

小石は小石です 

細く長く道の片隅に

わずかに一つ二つ佇んでいるのも

水の底 泥の中に うずもれて

静かに 土の肌触りに触っているのも

それぞれの 小石なのです

 

操り人形(2)     582

操り人形(2)

 

そのほほえみは絶えることなく

その身のこなしは板についていて

誰の目にも君は素敵な姿

君の瞳には幸福の他に何も見い出せない

 

少女は君になれる日を夢みて

少年は君の姿を憧れて

 

君は自分の美しさを知らないから

他の人が思うほど

幸せを感じていないかも

 

君は自分を知らないから

悲しいまでに残酷な

君の手首の動きが見えない

 

君の瞳は 高価に輝く

ガラス石にすぎないし

そんな瞳には何も見えない

 

他の人は 君が放つ鮮やかな光に

君以外の何ものも見えない

君の手首には透明な強い糸が巻いてある

 

君の動きの全ては

その糸の操るところにすぎない

 

動きあってこその美しさ

糸あってこその君

 

誰も知らない そんなこと

君は踊れば それでいい

 

気づいたときは 糸は切れ

君の全てが絶えていく

 

操り人形     581

操り人形

 

君は踊らされているのがわからない

あいつにはもう決まった娘がいるのに

君はあいつにとってなんでもない

ただの操り人形さ

 

君の捧げるその愛も

受け止めるわけもなく

報われず 思い悩むうちに

君はすっかり擦り減ってしまう

 

それでも君は夢みるのか

いつかシンデレラになれる日を

それでも君は待っているのか

あいつが無言で手を差し伸べる日を

もうやめたまえ

 

このままでは糸が切れてしまう

そして 惜しげもなく 捨てられてしまう

 

操り人形 君はすてきな衣装を着て

軽やかに踊り続ける

 

 

 

思慕     580

思慕

 

昔 別れし その人の

雪降る窓にうつるとき

底に沈みし 我が血潮

ほのかにたぎりぬ

 

花散りし 心の酔ひの慰めに

君と歩きし この道も

白く悲しく 乾きにけり

 

鳥飛びし 心の声の歓びに

君をみつめし この街も

今はただに 羽を休めぬ

 

雲染めし 心の旅の終焉に

君と交わせし 杯も

明日はなき 別れのなごりかな

 

禁断のリンゴを 食べて

アダムとイヴは ひとところなり

我 ゆえに 君を遠く思うべし

君いずこにいるか 知らずとも

それしか     579

それしか

 

いつものように 戻ってくる手紙は

あてのない僕の心のさまよい

 

君の香に触れることなく

僕の涙でしめった文字を

乾かして帰ってくる

 

届く日もあろうことかと

儚すぎる望みをたくして

それしかない それしか・・・

 

風     578

 

無性に 何かを話したいとき

そっと 耳を貸してくれる人がいた

そして ふっと ほほえむ人がいた

それだけで 僕の心は 洗われて

ここちよい風が 吹き抜けた

 

その風は 今はいずこ

どこへ 行ってしまったのか

 

かごのなかの鳥     577

かごのなかの鳥

 

とても美しく整った羽でした

たくましく伸びた羽でした

いつも考えるのです

この羽でどこまで飛べるかって

いつも思うのです

 

あの雲の上までいけるだろうって

空想の世界が あの青空よりも広いのは

不思議なことです

 

そこにいる限り いつも飛べたのです

どこまでも 飛べたのです

 

だから この青空をよぎることなど

大したことでは なかったのです

 

いつも そこまでです

いつも それでおわりです

もう飛んでしまったことになるのです

 

いくら考えても同じです

何度考えても同じです

僕には羽があるんです

 

でも 僕はかごの中にいるのです

だから 僕はそこまでなのです