史の詩集(続)Fuhito Fukushima

福島史(ふくしまふひと)の詩集の続きです。

届かない想い     576

届かない想い

 

プラットホームの片隅に

青いブレザーを着て

水色のショルダーを

細い肩にかけていた

 

少女らしさが まだ抜け切れないまま

すっと つまさきを見る

そのしぐさは なんとなく

女らしく なってしまって

美しく なってしまって

遠く なってしまって

 

君がちょっと振り返ってくれれば

すぐにわかってくれるだろうに

僕がどんなに声をはりあげても

君には届きやしない この想い

 

命綱     575

命綱

 

あきらめてしまえば すべて終わりだよ

君は 気づいていないだけさ

君がなんとかつかまってきた

その綱は命綱だってことに

 

なんとなく 手を離してしまえば

君はまっさかさまに落ちてしまうさ

気持ちのよい陶酔感に浸りながら

気づいたときは どん底

 

だから もう少し 我慢しな

もしかしたら その網は

雲の上まで 続いているかも

そこに幸福があると信じ

だから今までしがみついてきたんだろう

 

もう一度 足元を見つめてみよう

気づかぬうちに こんなに上ったじゃないか

小悪魔     574

小悪魔

 

君は天使の顔をした小悪魔

君のそのほほえみに出会った奴は

たちまち恋のとりこにされる

 

罪深い君は 何も知らないで

まばゆい顔をしているけれど

その瞳が その口もとが

どれほど純な心を傷つけてきたか

 

君は知らない 何にも

だから恐ろしい 君は

君は知らない 自分の美しさを

 

君のなにげない振る舞いが

どんなに誘惑的に満ちていて

君のなにげない一言が

どんなに人をひきづりこむのか

 

今もここで     573

今もここで

 

今日も一人 またいつものところで

いつものように まちぼうけ

晴れてる日は 心もからりと

あきらめきれるのだけど

 

今日のように

空が泣き出しそうな日は

空より早く 私のほほに涙

 

いつまで待ったらいいの

そんなバカなことは

考えてしまったら

どうにもならなくなるわ

 

ただ ここでいつも

走ってきた遠い日の

あなたを待つの

 

.~したいときは     572

.~したいときは

 

眠ってしまいたいときは

眠れないものですね

今日のできごとが

まるで遠い昔のことのように

ぼんやりと流れてきます

 

笑ってしまいたいときは

笑えないものですね

僕のどこかに君が

ずっと棲んでいたなんて

気づくのが遅すぎました

君と目があった つかの間のときめきに

 

君はおもしろそうに 

そして顔をそむけて

何をいまさら なんて

君を愛したことにも 

気づかなかった

僕なのに

 

ふるさと     571

ふるさと

 

ふるさと 思い出 心にしまわれたものを

訪ねに帰ってきました

うつろになったこの心

若き日のたぎりを確かめたくて

もう一度だけと 帰ってきました

 

ああ これがふるさとの匂いです

僕の生れた街

そして 君と暮らした街

あのころの思いをこめたものは

どこにもないし

 

別れらしい別れもできず

去ってしまった 君もいないけど

ふるさとは 僕の母 今でも

暖かく 抱いてくれる

 

君をみつけた つかの間の喜びは

君と幸せをつかんだ人がいた

あまりに さびしくて

あまりに かなしくて

 

君と別れた覚えはないけれど

何をいまさら 言い訳なんて

君の幸せ願って 離れた僕なのに

 

ふるさと 思い出 心に沈めていたものを

そっと 掘り返しにきました

おちぶれてしまった この自分

若き日の大きな夢を確かめに

 

あのとき 涙ひとつみせず

君は去ったし

君の思い出 多すぎる この街を

ただ苦しくて見捨てた僕だけど

 

叶わざりけり     570

叶わざりけり

 

君を訪ねし愛の日は

耐え難き暑き陽も

我が心のにぎたつ思いに

叶わざりけり

 

君を呼びだすベルの音に

はるばるいだきつ思いも

君の香 匂ひし声に

叶わざりけり

 

君に話せし言の葉は

一夜寝ずに考えしも

君の出だせし一言に

叶わざりけり

 

君とのぼりし裏山は

木陰に涼しき風あれど

君の流れし 長き髪

叶わざりけり

 

野山を染めし夕焼けは

金色に君が頬をてらせども

君のおりなす細き影に

叶わざりけり

 

君が手にくみ山水は

冷たく清く透みけれど

君が出だせし白き手に

叶わざりけり

 

君がかぎし愛の田園は

青く大らかに広がりけれど

君が熟し高き心に

叶わざりけり

 

君と過ごしし夏の日は

長く楽しく暮れにくけれど

君を思いし 我が長き思いに

叶わざりけり

 

石ころ その後     569

 

69.石ころ その後

 

君の心が僕にあると知ってから

僕にも君しか見えなくなりました

君に何もかも話し

君は何もかも聞いてくれました

 

僕は本当に一人ではなくなりました

君は笑うことができました

その瞳を輝かし 

まばゆい美しさをふるまき

僕に唯一のかけがえのないものとなりました

 

僕には石ころはもう 必要ありませんでした

拾ったところにある 大きな池にそっと沈めて

おこうと思いました

そうすることが 石ころにとっても 僕にとっても

よいことに思われたのです

 

僕は池に行きました

その日だけは君を誘わないで

小さな石ころとのお別れは

一人でするのがふさわしく思われたからです

 

なるだけ遠く 深く沈めてやろうと

僕は石ころを長い間

胸につけたあと 大きく手を伸ばして

力いっぱい飛ばそうとしました

 

そのときです 大きな木のうしろから

君が急に出てきたのは

あとから考えると 不思議なことでした

やめてと叫んだ そのときの君は

神秘的なまでに美しかったのを覚えています

 

でも遅すぎました

石ころは その声が響くのと同時に

僕の手を離れていました

 

君は僕に抱きつきました 力いっぱい

その目から 涙がとめどなくあふれていました

僕には わけがわかりませんでした

 

遠くの方で 石ころが高くはねました

同時に 君は光の黄砂のように砕けて

その池に広がった 波紋の中心に

すっと直線に吸い込まれてしまいました

 

ふと 僕の耳に たったー言

君の声が美しく

あれは私の心だったのです

 

池は いつも無愛想に横たわっています

ただ 僕のポケットに小石はなく

また 一人、心は空洞になりました

 

石ころ     568

石ころ

 

ふと道端で 拾ったのは小さな石ころでした

どうしてそんなに気になったのかわかりませんが

そうせずにいられぬ何かが 僕の心に呼びかけたのです

 

なんとなくポケットに入れていた石ころが

いつの間にか かけがえのないものに思えてきました

 

僕の心があまりにもさびしかったからでしょうか

苦しくて握り締めたこともありました

悲しくて 涙でそめたこともありました

 

そうして暮らしているうちに

その石ころは だんだんつやが出てきて

美しくなりました

 

僕が苦しいときは コーヒー色とブルーに

僕が悲しいときは 水色に

僕以上に 僕の心を知っている

ちっぽけな石ころでした

 

いつものように ポケットに

小さな石ころを入れて

街に出ました

 

いつものように 一人 

何もすることもないので

石ころを捜してみました

 

どんなに整った石ころも

どんなに整った宝石も

僕の心に磨かれた石ころには

いやたとえ宝石でさえも

その石ころにはかなわなかったでしょう

 

僕は前ほどさびしくありませんでした

その石ころを拾ってから

僕は全てを石ころに話してきましたし

石ころは何も言わず

すべてを聞いてくれました

 

そうしたうちに

僕は妙なことに気づきました

石ころに僕と違った 

もう一つの気持ちがあるようなのです

 

僕が間違ったことをするといさめる心

僕がひねくれるとおだやかにさせる心

それは石ころの心だったのでしょうか

 

そうしたうちに僕は気づきました

その石ころを拾った街はずれの

大きな木の下にいつも立っている女の子に

 

石ころは僕に話しかける 

勇気を与えてくれました

 

なんとなく 

トントン拍子にうまくいって

友だちになれました

 

運命     567

運命

 

どうして君はそんなに強く生きれるの

僕の差し出す手に見向きもしないで

ほほえんでくれるのに 笑ってくれない

耳を傾けてくれるのに

受け入れてくれない

 

この孤独

都会の中にいても

君の心は何一つ 動かない

あまりに気高いプライド

 

君の心の奥には

君を支える何がある

 

そこまで強く生きるのは

何かをずっと待ち続けているとき

 

僕に見向きもしないのは

そうさせない 何かがある

君は何を待っているのか

 

僕を超えたところにある君の幸せを

僕は何ともできない

その幸せをつかんだとき

君は初めて女になる

 

心に誓ってから

君は一人歩き始めた

君はその一点しかみえない

 

僕に心を開くこともない

いつの間にか 定まった運命

通り過ぎる君 追いつけない僕