史の詩集(続)Fuhito Fukushima

福島史(ふくしまふひと)の詩集の続きです。

少年と海     0060

少年と海

 

少年は砂を握った

強く握れば握るほど砂はこぼれた

砂は少年がそれまで出会ったどんなものとも違っていた

 

少年が自分の心を見つめて

説明できないものはなかった

この世のすべてのものは

一つのものから派生している

 

だから少年が砂に

そうしたのはしぜんだった

だから少年はまだわからなかった

少年はそんな砂の存在を認めながらも

からっぽになった手を見て

やはり悲しかった

 

そしてまた同じことを繰り返そうとするのだった

そして日が暮れるとまたいじけた感情を残して

浜辺を去るのだった

黄昏に染まる砂は美しかった

そして少年はまたそういった感傷を愛していた

少年を飽きることなく

日が昇ると姿を現した

 

砂にとって自分は何なのだろう

こういう考えが少年の心に起こるのは

少年が幼いからか

何とかはっきりさせたいと

少年はいっそう強く砂を握るのだった

 

そして砂はいつも無感情、無慈悲であった

そうであればあるほど少年は砂を信じたくなるのだ

そうしなければ少年は耐え難かった

そしてそうすればするほど砂がわからなくなるのだった

 

それはいつものように少年の半ば慣れてしまった感傷を

大事に抱えていたときだった

 

ー真っ青な天空に一筋の光が少年を襲った

 

少年は海を見た

いや限りなく広く深い海を知った

 

少年を海で育った

だから海を知っていた

海を渡るのが少年の夢だった

少年の心の中にはいつもその海が広がっていた

 

海を渡るには海底をしっかり踏みしめていかなければいけない

少年を知っていた、古来幾人もの男が海の藻屑になってしまったのかを

地に足をつけないから誰も渡れなかったんだー

 

少年は信仰のようにそう思い続けてきた

だからその理想は海を越えて少年の夢見る世界に行くこともあった

少年は自分の力を過信していた

いやどちらかと言えば自らそう思い込ませてきた

それは海への恐怖からでもあったし

また少なくとも自分の力に限定を加えていては

到底海を渡れないから、必要なことでもあった

 

静かな海しか知らない少年は

海底の様々なものに触れてこそ

自分の世界に至れる

表面を行くのは軽率以外のなんでもなかったし

少年は自らに苦しみをかさねばならぬと思っていた

 

それは一瞬のことだった

けれどもその一筋の光は

少年がそれまで築いてきたものを破壊した

 

いや少年を見た

自分の歩んだはずの

常に自分を支えていた長い道のりに

一つの足跡もなかったのを

 

少年は己を信じようと努力した

しかし真実は残酷だった

 

足跡が残っていなかったのではなかった

初めからついていなかった

築いてきたものなどどこにもなかった

それは少年の心の中の虚像にしか過ぎなかった

 

一筋の光にはそれだけの力があった

少年が今まで取り付かれていた物を瞬時に壊す

それは少年の未来までも破壊するほど強かった

いや少年があまりに弱かったにすぎない

 

海底には闇しかなかった

いや少年が期待していたことは間違ってはいなかった

しかし本当に海を知らない者

この少年には闇しか見えないのだ

海を渡るには、天空の多くの星を追いかけねばならんのだ

そして少年を知らなかった

海はその底よりも表面がどれほど荒れ狂うのかを

 

少年はもうどうすることもできなかった

海の泡となることに美があろうか

自分の存在が初めて無になった

 

少年の心にもう砂はなんでもなかった

そのとき少年の心に砂が通った

砂の心に少年がなんでもなかったわけを

少年はやっと知ることができた

 

少年は自分があまりに単純すぎたことがわかった

自分は虚像に過ぎなかったのだ

そして今少年はそれをぶち壊した

 

海の向こうの世界は

少年の命だから

永遠に輝いている

 

少年はようやく

この海を渡りきれる気が

実感として脈打っているように思われた

 

そして

やっと少年を脱ぎ捨ていた自分に気がついた