さびしい人
とてもさびしい人がいました
笑顔もなければ喜びもない
そんなふうにみえました
いつもそうみえました
とてもさびしい人がいました
希望もなければ夢もない
たしかにそうでした
何もそこにはありませんでした
そんなさびしいだけで
うらびれた人生の中
ただ一人
落ちるのを待つ枯葉のように
ただ一人
風にゆられているのでした
強い風がくると はげしく
弱い風がくると かぼそく
とにかく今にも落ちそうな
細くはられた人生でした
道を踏みはずさず
生きていたのが不思議なくらい
さびしい人でした
天にのぼる気力もなく
地におちる勇気もなく
なすがままなのでした
そんな人は
誰も気に留めてくれないのでした
だからほんとうに自由でした
空は青く見えました
雲は白く見えました
街は茶色に見えました
山は緑に見えました
すべてそんなふうに見えました
何一つ難しいことはありませんでした
でもあるとき
ふと そんな気になりました
駆け抜けた子供たちの
笑い声が聞こえたからです
さびしさがすっと抜けたような
その人らしからぬ気持ちが
その人にとっては快感でした
さびしい人はもう
そういえなくなりました
希望もあれば 夢もある
体がずっと軽くなったのでした
初めて太陽が見えました
白い光が見えました
空も雲も街も山も
一色ではありませんでした
見えなくていいものまでみえました
そんなあたりまえのことに気づいたとき
さびしかった人のほおを
初めて涙が流れました
もうさびしさを失ったのでした