史の詩集  Fuhito Fukushima

福島史(ふくしまふひと)の詩集です。

さびしい人     552

さびしい人

 

とてもさびしい人がいました

笑顔もなければ喜びもない

そんなふうにみえました

いつもそうみえました

 

とてもさびしい人がいました

希望もなければ夢もない

たしかにそうでした

何もそこにはありませんでした

 

そんなさびしいだけで

うらびれた人生の中

ただ一人

落ちるのを待つ枯葉のように

ただ一人

風にゆられているのでした

 

強い風がくると はげしく

弱い風がくると かぼそく

とにかく今にも落ちそうな

細くはられた人生でした

 

道を踏みはずさず

生きていたのが不思議なくらい

さびしい人でした

 

天にのぼる気力もなく

地におちる勇気もなく

なすがままなのでした

 

そんな人は

誰も気に留めてくれないのでした

だからほんとうに自由でした

 

空は青く見えました

雲は白く見えました

街は茶色に見えました

山は緑に見えました

 

すべてそんなふうに見えました

何一つ難しいことはありませんでした

 

でもあるとき

ふと そんな気になりました

駆け抜けた子供たちの

笑い声が聞こえたからです

 

さびしさがすっと抜けたような

その人らしからぬ気持ちが

その人にとっては快感でした

 

さびしい人はもう

そういえなくなりました

希望もあれば 夢もある

体がずっと軽くなったのでした

 

初めて太陽が見えました

白い光が見えました

空も雲も街も山も

一色ではありませんでした

 

見えなくていいものまでみえました

そんなあたりまえのことに気づいたとき

さびしかった人のほおを

初めて涙が流れました

もうさびしさを失ったのでした