遺品I
どうして君は旅立ったの
どこに向かって飛んでくの
生まれたときから親しんだ
この美しい森を捨ててまで
そんな小さな羽で どこまで行ける
森の外に何がある
限りない草原か
枯れてしまった荒野か
生きていける 何もない
そんなにさびしいとこなのに
君の力じゃ そこまでも
たどりつけやしないだろう
ましてや その草原の
その荒野の向うに行くなんて
君の慕ったあいつも
君より夢をとった
あんなに強かった奴でさえ
荒野の中に眠ったというのに
追うのはおよしよ
悲しみは捨てて
遺品II
君を恋そめし 幼きころは
誰よりも君が想われて
想わなければいられない
そんな恋情が不思議で
不思議よりも想ってた
それが恋だと知ったのは
ずっと後のことだけど
恋というものが
こんなに身近にあったなんて
そのとき君はいなかった
何も知らずに 別れた後だった
どうして恋をしたのか
知らなかったから
恋してどうなるのかなど
わかるはずもなかった
そんな幼い心にも
どうにかしたいと 思っていたらしく
君のくれたものを 大事にとっていた
それが精一杯だった
何もかも忘れてしまった今でさえ
小さな貝からは
広い海のさざなみのあわあわ
しとげな初恋のほのかな香りを漂わす