史の詩集  Fuhito Fukushima

福島史(ふくしまふひと)の詩集です。

Vol.6

詩Vol.6


0035 「雪」

君は 窓に額をつけて 外をみていた
ぼんやりとうつろな目でみていた
皆は不思議がってたずねた
君は答えた 「雪が白いから」
皆は笑った でも雪は白かった

君は白い息を吐きながら 外をみていた
曇ったガラスをぬぐってみていた
皆は何をみているのかとたずねた
君が答えた 「雪が舞っている」
皆は笑った でも雪は舞っていた

君は窓に額をつけて 外をみていた
ぼんやりとうつろな目でみていた
皆は不思議がってたずねた
君は答えた 「雪がやんだ」
雪がやんだ?
皆はもう 笑おうとはしなかった


0001 「別れ」

こんなにはやく別れの日がくるとは思いませんでした
いつかこの日がくることは知りすぎていましたが
せめて卒業するまで待って欲しかったのに
あなたが安らぎとなって私の胸に眠るまで

私たちに甘いものはひとつもありませんでした
あなたを愛せなかった私が悪いのかもしれません
冷たい現実に情熱をぶつけあったこと
それが私たちにとって最上のものと思ってました

あなたは大人になって孤独に耐えていくのですか
想い出をこわしてまで
この悲しみを知らず一人立ちするあなたに
どんな顔をしてさようならっていえばいいのでしょうか


0002 「POPOへのオマージュ」

雨の中でお前は さよならもいわないで
車で連れられた 遠いところへ
今日という日がやってきて
おまえは約束どおり連れ去られた

家の中が広くなった ちっぽけな体が消えたばかりに
今はどこにいるのだろうか
かわいくて憎かったときもあったお前
今日はどんより曇った空の色 雨がさびしい

たった二年だったね 一緒に暮らしたのは
ぼくをうらまないで 仕方なかったんだ
お前は何もわからないかもしれないけど
やっぱり一番悲しいのは おまえだよな

そうだよ やっぱり これがお前にとって
本当の幸せなんだ さようなら
ぼくのことは早く忘れて 幸せに暮らすんだよ
幸せに暮らすんだよ ぼくのことは早く忘れて


0003 「POPOへのオマージュ(2)」

忘れよう 君のことはもう すべて忘れよう
思い出せば出すほど 悲しくなるし
いくら悲しんだって どうにもならない

忘れよう 君のことはもう みんな忘れよう
君を思い出せるものは 全部捨てて
いくら悲しんだって 君は帰ってこない

忘れよう 君のことはもう すべて忘れよう
昨日までのことは みんな夢のように
心の中にしっかりふたをして 君の 君の
幸せ信じて忘れよう


0004 「無題」

君は なぜわかってくれないのか
僕たちは若いんだ 子どものように
正直に生きよう 自分の心を飾らずに

君は なぜ信じてくれないのか
燃えればいいんだ 何も考えず
素直になろう 大人のふりをせず

君は なぜ顔をそむけるのか
さあ飛び出すんだ 自然の中に
すべて捨てよう 明日があるのだから


0005 「手紙」

いつの日からでしょう
こんな手紙を出す日が来ることを思い始めたのは
この日を恐れ出したのは
これがあなたの手元について あなたが読み終わったときに
私はもうあなたに笑顔を返せなくなるのでしょう

さようなら 愛する人
私はこの街を去ります あなたに二度と会えないように
あなたとの多くの想いを忘れて 私は旅立ちます
行くあてもないのですが いくらか心が休まったら
きっと嫁ぐでしょう

許してください もしあなたが私を信じられなくなったら
あまりにも長すぎました 私たちにとって
身が離れて 心も離れた
あのころのすべてだった愛が こんなはかないものだったとは
どうして考えることができたでしょうか

わかってください 去年、あなたに会ったとき 
私にとっては 初めてのデートでした たぶんあなたにも
そんな幼い私たちに何がわかったでしょう
たった一つだけ確かなのは あのころの情熱は消えてしまったこと
もう別れることしか残されなかった

許してください もしあなたが私をまだ愛していたのなら
今の私には愛せる人はいません 世界中に一人も
二度とこんな苦しい思いをしたいと思いません
幸せだったあのころを忘れること
それが幸福なのではありませんか


0006 「今ごろ君は」

今ごろ君も寝られないでいるのかな
あの月の下にある 小さな街の角っこの家で 遠くはなれて
君の顔もおぼろげだけど 忘れやしない

今ごろ君は何をしているのかな
物干し台にあがって 冷たい風をあびながら こちらを向いて
やっぱり僕と同じこと 思っているのだろうか

今ごろ君は何を考えているのかな
長い髪に手をあてて 切っちゃおうなんて だめだよ
君は変わらないでほしい 遠い君と これ以上離れないように

また会える日がくるの それさえわからない
あれが最後の君だったかもしれない
列車の窓に両手かけて 顔を上げなかった
負けず嫌いの君の涙を見ることは なかったね


0007 「教えてくれ」

誰か教えてくれ おれの生きる道を どうやればいいんだ
この大切な蒼いときを こんなふうに過ごしていいのか
教えてくれ おれのぶつかるものを

これではいけない おれの生きる道は もっと苦しいはずだ
ぎっしりつまった毎日 その一瞬を燃えなければ
教えてくれ おれが飛び出すところを

平凡を捨てろ おれはおれなんだ
人がどう思おうとも この想いを大事にしよう
何もできずに年老いてしまわぬよう
教えてくれ おれのやらなくてはならないことを


0008 「空まわりの空」

どこか狂ってるんだよ おれたちは
今日の次に今日がくる いつまでたっても明日がこない
それなのに一年はあっという間に過ぎてしまう
それなのに一年はあっという間に過ぎてしまう

なんで狂ったのだろうか おれたちは
夜の次に昼がくる 新鮮な希望に満ちた朝がこない
それなのに 一日は あっという間に過ぎていく
それなのに 一日は あっという間に過ぎていく

どうして狂ってしまったんだ おれたちは
現実はいつまでもそのままだ 夢は空の向こうに
何もできずに この世は終わりを告げてしまう
それなのに おれたちは 終わったことさえ知らない
それなのに おれたちは 終わったことさえ知らない


0009 「森の中に見つけたもの」

ある日 僕は 森の中
深くて誰も入ったことのない森の中に入りました
中には 僕が見たことのない 珍しいものがいっぱいありました
お日さまも照らさない闇だらけ
その中にこんなにすばらしいものがあるとは思いもしませんでした

森の住民は僕を見に たくさん集まってきました
人間というものに好奇心をもった住民は 僕を取り囲みました
何も周りには見えなかったけど そんなふうに思われました

僕は僕に呼びかけ お前たちは何者かと尋ねました
美しい音色が耳にささやきました
見たことのない鮮やかな色が飛び散りました
どこまでいっても果てのない森の中 何も見えないのに
とてもとても明るいのです

彼らは教えてくれました
心の音を 心の色を 本当の愛を 知を まことの真実を
真っ暗な森の中
その中にこんなにすばらしいものがあるとは思いもしませんでした

森から出て 僕は考えました 目の前にあるものを
人間というものを
森には青い空も 萌ゆるような緑はなかった
けれど心の目で眺めているとわかるんだ
森の中を流れていた小さな川の流れの中に
昔の僕がいたことが


0010 「おまえの家」

まっくらな空の下 僕は一人帰る
疲れ果てて 足取りも重く ふらふらと
いじわるな雪に 足をとられまいとして
ああ 家はまだまだだ

人っ子一人いない街の中 僕は一人帰る
信号機が ちょうど赤になっちまって
地面をこする風に 顔をあてまいとして
ああ 家はまだまだだ

ああ おまえはどこにいるのか
どうやって捜せばいいのか
どんなにおまえが遠くにいても
おれは 今すぐに会いに行きたい

ああ おまえはどこにいるのか
いつになったら会えるのか
顔も見たことのないおまえに
いつか会える日がくるのだろうか

おまえよ おまえよ 答えてくれよ
今こそ おれのそばにいておくれ
もし この世界に生きているなら
もし この世界で出会えるのなら


0011 「夜行列車」

ぼんやりと空が明るくなってきて
夜明けだよ 長い夜は終わった

お日さまがあんなに赤く輝いて
夜明けだよ 新しい朝が来た

僕は今日から一人で生きていくんだ
希望を胸にみなぎらせ 精一杯
列車は走る 青い海を横にみて

誰もまだ 雪が降ったのを知らない
夜明けだよ 長い夜は終わった

どんよりと街は曇ったままだけど
夜明けだよ 新しい朝が来た

僕は今日から一人で生きていくんだ
寂しかった昔を振り捨てて 今日から
列車は走る あの陽が傾くまで


0012 「マフラー」

バス停から今日も一人歩く 星も出ていない空の下 風は冷たい
長い長いマフラーを首に巻きつけ 肩をつっぱって夢を見る

赤信号にとめられて横をみると 澄みきった目がある あなたがいる
マフラーにすがってふるえながら ヘッドライトを浴びてまぶしそう

ほんのささやかな幸福にひたり こわばった頬がとけはじめる
赤が青になって マフラーが軽くなり ふっと寂しさが
あなたがいたら


0013 「手紙」

冷たい風に眠気も吹きけらされ
今日もぼくは 門に立つ
たった一枚の手紙 あなたの―
もう無駄なことかもしれないけれど

去年の今ごろは 何でもなかった手紙
あなたの文字がまた大人びてた
どこにいるのか あなたは―
今はもう あなたの便りを待つだけ


0014 「お別れ」

あなたはどうしてそんなに明るく笑えるのですか
幼かった頃のように
僕の心の中は悲しみで染まっているのに あなたは―
雨がやんだら お別れですね 僕と―

あなたはどうしてそんなに明るく笑えるのですか
出会った頃のように
僕は現実に苦しみ 疲れ果てたのに あなたは―
雨がやんだら さようならですね 僕と―


0015 「おねえさん」

いつもは待ちあこがれる春だけど
今年は桜が咲くのが悲しい
おねえさん 都会は冷たくないですか
夏の休みには 笑顔で戻ってきてほしい

いつもは味気ないねえさんの料理が
今年は不思議に心を温める
おねえさん わがままはいいません
夏の休みには いっしょに海で泳ごうね

いつもは世話ばかりかけていたけど
今年は青空に 白い雲ぽっかり
おねえさん・・もひとりぼっちですね
夏の休みには いっしょに暮らせるよね


0016 「今、再び」

その名が心に響くのはなぜ 日が経つごとに 大きさを増して
今も忘れやしない あの毎日を あの頃のあなたを
そのときは なんとも思っていなかった
ただの無邪気な行ないが 年がたつにつれ
あざやかに思い出となっていく その流れに翻弄されて

久々に 先日 その頃のことに触れるとは思わずに 足を運んだ
今も忘れやしない あの毎日を あの頃のあなたを
すべてはじめて見たように 新鮮味あふれてた
この場所にあなたと もう何年前なのか
その甘い日々の感触が 手に指に蘇ってくる


0017 「夜汽車」

汽車は走る 暗闇の中を
座るところもない客室を出て
冷たい外気に触れながら
人家の灯りを遠くに見つつ

汽車は走る 静けさの中を ガタゴトと刻む音とともに
長い夜は一人ぼっち 擦れ違う貨物列車が心おどかす

汽車は走る 暗闇の中を ゴーとトンネルつんざく耳に
小さな駅を通過する 駅員さんがホームに一人遠くなる


0018 「停車場」

雨にうたれて あなたを待つ
停車場の小さなホームで 赤さびたレールが光る
レンガ造りの石炭置場は 雨に塗り替えられてゆく

ぼうっとかすんで あなたが見える
線路を隔てたあっちの方に 息をはずませかけてくる
「遅れたかい」なんて わざとらしく
コートを脱いでかぶせてくれた

あの頃は幸せだった 待てばきっとあなたに会えた
だけど今は もう雨に打たれて いくらぬれてもあなたはいない
雨は降るけど あなたは降りてこない 遠い遠い空から

停車場の小さなホームで 赤さびたレールが光る
レンガ造りの石炭置場が 雨に塗り替えられてしまう


0019 「君のこと」

デパートのおもちゃ売場で
ピンクのかわいいうさぎのぬいぐるみ
君みたいねっていったら ほほえんで
あなたもいるよねって
シンバルたたくチンパンジー

そのとなり、ベビー用品場で
愛らしい赤ちゃんのベッド
買っておこうかっていったら はにかんで
いらないわよ こんなもの
あなたにはちょっと小さすぎる

いつも毎日 君は この調子
素直じゃないところが 君の素直さ

そうさ 君は幼いまま
昔からちっとも変わっちゃいない
チョコレートかじって ブランコこいで
青空に夢を追いかける
腕にしがみついて 体をよせて
夕焼けの赤さにみとれてる

暗い帰り道 買いものぶくろ手にもって 見上げたら
夜空に輝く星が とてもきれいだったね


0020 「LOVE」

忙しい毎日が明日をよぶ
わずかだけど 一番幸福なとき
それは 夢が頭の中をかけめぐるとき
疲れたときには赤い古びた辞書を
本棚の隅から取り出して単語を調べよう

ラブー LOVE(エル オー ブイー イー) どうでもいいけど
I fall in love with you  ウォーウォーウォー
ウィッツ ユー YOU(ワイオーユー) あなたと
オンリー ユー YOU あなただけ―

一日じゅう 家の中に閉じこもり
わずかだけど 一番幸福なとき
それは 胸の中のあなたがほほえむとき
想い出の二人には赤い古びた辞書を
目をつぶってねらいをつけて単語を調べよう

ラブー LOVE(エル オー ブイー イー) どうでもいいけど
I fall in love with you  ウォーウォーウォー
ウィッツ ユー YOU(ワイオーユー) あなたと
オンリー ユー YOU あなただけ―

LOVE YOU あなたを
LOVE YOU 愛しています


0021 「白い恋」

白い恋を雪の道に走らせて
電話BOX やさしい声を つるつるに凍った道を急ぐ

10円玉を片手ににぎりしめ
電話BOX やさしい声で
髪をなぜながら ダイヤル回す

お久しぶりですね 覚えてますか
私です あのときの雪の妖精

東京に来たら必ず寄れと あなたがくれた紙切れあてに
もう 5年もたったのですね 覚えてますか 私の声を

あなたは孤独な旅人 吹雪の夜に凍えて私の家に来て
体が直ったら すぐに出ていった

それから一日たりとも忘れやしません ずっと愛しています
あなたは何もしてくれなかったけど
二人で話したことも覚えています

今 すぐに会いに行きます
私はあなたの白い恋人


0022 「スバルスリップ」

雪道でスバルがスリップ走れない
オイチョット オシトクレ
三人連れの学生がめんどうくさそうに
車に近寄ったら ビュー

そのまま行きゃいいのに 止まって
スンマセン タスカリマシタ
何にもしてない学生さん 照れくさそうに
コートのすそは ビッショビショ

さてはスバルめ タイヤが雪とばし
オイチョット マットクレ
気前のよいおっさんは 千円札にぎらせ
車にのってドアしめ ビュー

そのまま行けずに 止まって
スベッテスリップ ハシレナイ
三人連れの学生は 走り出している
おいこら 待たないなら 千円返しゃんせ


0023 「港町 ブルージィ」

あなたへの想いを振り切れず この港に来ました
冷たい海風 髪は潮に染まりゆく 月のきれいな夜でした

哀愁のせて汽船はいく あなたの国に帰るのでしょう
一人港に取り残されて 波の音もない夜でした

にぎやかな港町の帰り道 私の故郷 思い出の浜辺 海の香
遠くひかる灯台の光が あなたの面影をにじませます


0024 「失恋」

やみそうな雪の清らかさ 音も立てず 窓の外
冷え込んだ外気が 頬を切りつける

埋もれた田んぼを追うていくと どこからか空になる
つかみようがない 白い空間 目がうつろうだけ

ぼうっとした広がりに 空しく心の穴に風が吹く
もう何も聞こえない 髪が凍えるよう 雪片を払いつつ歩く


0025 「長い一日に」

せまい部屋の中で一人 ギターを片手に
何も考えずに弦を押さえる もう何日たったのだろう
とても長い一日が 何の味気もなく過ぎてしまう

幸せの過ぎたあとのさみしさ ただ昔にもどっただけ
それなのにギターの音色は悲しみさそう
とても長い一日が 何の味気もなく過ぎてしまう

話したくはないけど 会いたいんだ
見つめられたくはないけど 抱きたいんだ
未練はないけど もう一度 あなたの笑い声を聞きたいんだ

色あせたように ひとり
つまらない自分が ひとり
忘れ終えるころの君だったはず
でも 体いっぱい君だらけなんだ


0026 「年上の女(ひと)」

信じていました あなたへの愛を 私の愛するたった一人の女
たとえ それがはかなく壊れても よかったんです 愛したままなら
それなのに あなたの後ろ姿 私にはただ あこがれだった
自分で愛と決めつけていただけ

誰にもいえない あなたへの愛が まさか内から崩れていくなんて
たとえそれが報われず終わっても よかったんです 愛したままなら
私にはただ あこがれだった 愛という名に甘えていただけ
自分で愛と決めつけていただけ

ああ祈り捧げます 神よ
どうしてもうひとまわり早く
私に生命を吹き込んでくださらなかったのですか―
年下嫌いのあの人の恋人となるために
あの人は振り向いてもくれない ぼくはいつまでたっても子供のまま

目の前にぼくがいるのに
いつも孤独な顔してさびしそうに微笑んでいた
あの人は気づいてもくれない
ぼくが何をいっても ほほえむだけ ただやさしい笑顔をこぼすだけ
いくらがんばっても 拾えない僕 ああ・・・


0027 「初恋 雪解け」

雪が解け始めるころ
僕の心は凍ったまま
あなたが卒業していくのに
春なんかくるわけない

雪がお日さまに照らされて
暖かい日ざしがやりきれない
僕の気持ちで少しでも
春風を呼べないのか

出会ったのは 去年の今ごろ
あなたに取りつかれた僕
遠くからながめてるまに
別れのことばもなく お別れ―

あこがれたまま 何もできずに
一日また一日 暦がめぐる
どんなに短い時間でもいい
自分をあなたにぶつけてみたい

いつでも疲れた顔 ただながめる
一日また一日 暦がめぐる
あなたにとってなんでもない僕
僕にとってすべてのあなた

出会いもなく お別れ 初恋の雪解け


0028 「晩秋」

すっかり忘れてたよ ごめんね
今ごろふせぎこんじゃって 顔をふくらまして怒っているのかな
それもかわいいよ
落ち葉でも拾いながら ロマンチックに
一人 晩秋に ひたっているのかな

もうすぐ着くよ ごめんね
今ごろ退屈しちゃって 怒る気もしないほどくたびれたのかな
それもかわいいよ
温かい地面の上に 落書きしながら
一人 晩秋に ひたっているのかな


0029 「テニスコート

誰もいないテニスコートは 朝の静けさに包まれて
いやおうなしに僕を苦しめる
初めて会ったのは ここ 想い出の場所
そして いま 悲しみの場所

あまりにも早すぎたゲームセット
あなたが駆けていたのが 嘘のよう
白いユニフォームが跳ね回り
そんな日があったみたい、、だったよね

凍りついたテニスコートは 白線もさびしく土にかき消されて
いやおうなしに僕を苦しめる
初めて会ったのは ここ 想い出の場所
そして いま 悲しみの場所

あまりにも早すぎたゲームセット
あなたがネットの横にいて
ラケットで乱れた髪をなぜていた
そんな日があったみたい、、だったよね

でも私には 離れれば離れるほど 近づくよう
離れれば離れるほど 近づくよう


0030 「ターンテーブル

汽笛の音は変わってしまった
投炭場も忘れられ 給水塔も壊れかけ
そして
機関車の中は 昔どおり真っ黒だけど
プレートはもう輝かない
ターンテーブル
赤くさびついた音を立てて回る

汽笛の音は聞こえない
投炭場は炭もなく 給水塔の水は枯れ
そして
機関庫の上は 昔どおり青い空だけど
黒煙はのぼらない
ドラフトの響き
油にまみれた音をたてて回る


0031 「やりきれないときには」

ワォワォワォー 誰もいない野原で叫ぶ
ワォワォワォー 夜の月に向かって叫ぶ

石を投げられるだけ 空に飛ばして
草をむしれるだけ 散り舞いて
何となくやりきれない
この気持ちを 体を地面にたたきつけ
夜露にぬれる

ワォワォワォー 誰もいない野原で叫ぶ
ワォワォワォー 夜の月に向かって叫ぶ

夢も希望も何もかも根こそぎ砕かれて
わずかな幸せまで すべて奪われて
どうしようもなくやりきれない
ただこうして 星をみあげる 目を閉じる


0032 「ただ一度だけ」

ぼくがマッチ棒のように小さくて
四角箱にぎゅうぎゅうにおしこめられて
誰の目にも止まらなくても・・・いい
そのときがくるまでじっと していても・・・いい
一度だけ あなたに燃えられたら それだけで・・・いい

ぼくがマッチ棒のようにはかなくて
わずかの数秒で灰になってしまって
何の役に立たなくても・・・いい
すぐにあきかんに捨てられても・・・いい
一度だけ あなたを燃やしたら それだけで・・・いい

一度だけ あなたと燃えられたら それだけで・・・いい
それだけで・・・いい


0033 「星の瞳」

星がきれいだわと そんなロマンチックなことを
君が思っているなんて 気づかなかった僕
君を笑わせようとして いきなり振り向いた

君は驚いて 目を大きくして 肩をこおばらせた
僕は見つめられて その大きな瞳に吸い込まれて
何も言えなくなった
(星がきれいだね)

君は 夜空にぽつんと はなれてひとつ
さびしさ隠すように まばたき光る
いつからあの星は輝いているのだろうか
君の澄んだ瞳の中に きらめいていた星


0034 「おやすみ」

君は長旅に疲れて いつの間にか
すやすやと 眠りに落ちる
とてもあどけない寝顔がかわいい
僕の胸に抱かれて
窓の外が明るくなるまで おやすみ

鈍行列車 車内はいつの間にか
人はまばらに
とても静かに二人をつつんでくれる
僕の胸に抱かれて
夜明けの終着駅まで おやすみ


0036 「The eyes of Ice Doll」

君は冷たい人 どんなに近づいても知らんぷり
高慢ちきなお嬢さま 血も涙もない
愛も情けも 人間さえも知らないんじゃない?
目を合わせたくないほど キライな君
見てるだけ 考えるだけで 腹立たしくなる君
でも その澄んだ汚れのない瞳に
見つめられると 動けなくなってしまう

君は冷たい人 何をしようともおかまいなし
高貴なお嬢さま 笑顔も微笑みもない
悲しみも悩みも 自分さえも知らないんじゃない?
声も聞きたくないほど キライな君
見てるだけ 考えるだけで 我慢できなくなる
でも その澄んだ汚れのない瞳に
見つめられると 動けなくなってしまう


0037 「旅立ち」

旅立つ日は知らせませんでした
別れを心に感じたくはないから
帰ってくる日はないでしょう
二度とここには来たくないから
昔のことはすべて忘れて
これからの旅のことを考えましょう

海は荒れ模様 曇天続きとなりそうです
ここを遠く離れれば あなたも遠くなるはずです
そう思って 旅立ったのです
でも 私には 離れれば 離れるほど
近づくよう―

長く続きすぎた偶然
それは運命という神のいたずらだったのでしょうか
出会いのない人間に 別れなどあるわけないのです
昔のことはすべて忘れて
これからの旅のことを考えましょう

古い都で降りて どこかの寺で心鎮めて 
神に祈りながら 体をからっぽにしましょう
あこがれの小さな離れ島で
一人こっそりと暮らします
でも こんな私が夕暮れでもみてしまったら大変です
日は二度と昇らないのですから


0038 「曇天模様」

空が晴れてくれないのなら
飛びだしたい 雲の上に
この明るい太陽の光を
さえぎられて たまるものか
朝は 朝らしく来てほしいよ
新鮮な風に送られて

ゆううつな天気が続くなら
飛び込みたい 海の中に
雨の音ばかりで 外にも出られない
たまるものか
空は 空らしく輝いてほしいよ
この海のような青さで


0039 「旅に出てみませんか」

一人 旅に出てみませんか
あてもなく さすらいの―
見知らぬ街を歩いたら あなたの心も
澄んでくるでしょうか

何かを求めなくても
きっと何かに出会えるでしょう
見知らぬ人しかいなくても
あなたは人目を気にせぬ 穏やかさを
その中で感じるでしょう

一人 旅は時間を忘れるのです
ただの道がひどく親しげに
古びた店がとてもなつかしく
すれ会う人でさえも 恋しく思われるでしょうか
初めてだからこそ 清らかになれるのです

ごつごつとした一番大きな幹に
あなたのイニシャルを削っておきなさい
石ころが 砂ぼこりにまみれた雑草が からっ風たちが
あなたを癒してくれるでしょう


0040 「ひびき」

操車場から列車のひびきが
眠れず夜を明かしてる 僕の耳に
暗く染みとおった部屋で
天井の木目を数えては うとうとと

はだか電球消し忘れてた
もう朝だろうか
時計の音だけ妙に
重い頭にはらだたしい

しょぼい目は おぼろげに
部屋の中を見回す
カーテンのすきまから
うっすら 光がさしてきて

ふとんもかぶらなかった
枕に顔をこすりつけて
すっかり体は冷えている
起きる気もさらさらなく

ねむりたい 今はそれだけ
目を閉じる 今はそれだけ
どこかの犬が吠えてる


0041 「帰り道」

果てしなく続く道は
緑の風に香おって
青い空にもっくり雲

遠くの山は かっきりと
あのふもとまで行くんだよ
そう思えていた 幸せだった日々

青さに目が慣れて
動かぬ雲に飽きてきて
退屈しのぎに草をむしる

照りつけた太陽に
喜んで汗ぬぐう旅人などいない

今 僕は 砂ぼこりもたたない
白い道を行く
すれ違う人もいない
笑いあう友も去った

一本 まっすぐの道を
旅をやめた者たちが帰る
荒い風に くだ巻いてみても、な


0042 「コーヒー豆とランプ」

おだやかな日ざしが頬を赤らめ
コーヒー豆の芳ばしい香ほりに
屋根の雪がうめいては 氷柱が落ちる
なつかしい歌に引かれ ひとりでにすわってた

カウンターから一番離れたテーブル
マスターの顔も 甘いミルクコーヒーも
聞こえてくる曲さえ あの頃と同じ

古びた棚にグラスがそろったみたい
マスターの髪も白くなったのね
いつかのように 目の前のコーヒー豆
指でつぶして 目を閉じる

あざやかな過ぎ去った日の想いに
頬を涙がつたうのね
マスターの顔も 甘いミルクコーヒーも
聞こえてくる曲さえ あの頃と同じ

そっと目をあけ 後ろめたさにうろたえないように
ここは何も変わっちゃいないじゃない
あのガラスドアの外は すべて遠く流されたのに

今は一人で あのころの幸せ気分追いちらし
思い出してくれないのマスター 私は一人きり
うす黄色のランプの光がにじんでいる


0043 「旅人」

あなたはどこに行ったのか 私は知らない
行き先も 行く時も告げず
きっと あの山の向こうに行ったのね
私のささやかな夢も知らず
二度と戻ってこないことでしょう

通りがかりの旅人だったのかしら
私よりも枯れ野を選んだの
あなたはりっぱな流れ者だったって

あなたはどこに行ったのか 私は知らない
行き先も 行く時も告げず
きっと今ごろ 落葉に寝ころんで
誰のことを考えているのかしら

どうしようもない旅人だったのかしら
古びたカーボーイハット一つ
あなたは孤独好きな流れ者だったって


0044 「折り鶴」

折り鶴に願いを込めています
何もできないので
私はただ 白と黒の色紙よせて
あなたが帰るのを祈ります

一番好きだったのは青かしら
白い糸で一羽つなぐごとに
やるせないさみしさに
ふるえた手合わせ祈ります


0045 「かぐや姫

月のきれいな夜 星もたくさん 竹は輝く
あなたが旅立つのだから
部屋はきれいに片付いて
私のそばに読みかけの本一つ 置いたまま
お嬢さん またいつか 会いましょうね
遠いところへ 帰っていくのか
Oh my God, my dear princess !


0046 「下山」

水の音が透き通ってる この寺は
鳥の鳴き声さえも 聞こえないけど
あなたがいる間は ずいぶんにぎやかでした
座禅がようやく組めるようになり
山寺の暮らしにも慣れてきたのに
心の迷いが解けたのでしょうか
ここの自然に悟られたのでしょうか

何も土産はないけど
赤い木の実を髪にさしていきなさい
忘れっぽいの直ってないから―
雨あがりの石段はすべりやすいから 気をつけなさい
あなたの目にはキレイがうつるでしょう
この寺の鐘の音のように
キレイに聞こえることでしょう


0047 「地平線」

止まることさえ知らず 流れの中で
僕らは 夢抱き 生きているんだ
明日でさえ どうなるか知らないけど
僕らは 信じて 生きてゆくんだ

果てしなく続く道は 地平線のかなたへ
日が昇る朝焼けの 空の色にみとれて
照り映えるうろこ雲で 赤味がかった空

二度と戻らない 流れの中で
僕らは 夢抱き 生きているんだ
昨日でさえも 遠い昔になったけど
僕らは 信じて 生きていくんだ

果てしなく続く道は 地平線のかなたへ
夜空に輝く星は あまりにも遠くて
白く浮かびあがった雲に まんまる月の端