史の詩集  Fuhito Fukushima

福島史(ふくしまふひと)の詩集です。

Vol.7-1

詩Vol.7



1.僕の部屋

 

壁に閉ざされた 灯りひとつない部屋

出口が見えないなら

窓をあけて飛び出るはずだった

その窓もない

 

突き抜けられない壁 天井 床

ドアも消えた部屋

外には光が満ち 溢れてるはずだった

 

いったい僕はどこから 入ったのだろう



2.冬のロマン

 

ロマンのはじまりは

冷え込んだ夜

月が眠たげにのぞいて

ふわりふわりと 雲がちぎれて

街を塗り替える

星の数を数えながら

踊り降りてくる 冬の使者

 

ロマンの盛り上がりは

白く染め上げられた昼

陽が照りつけるのをさぼって

ざらりざらりと 道は艶消し

重っ苦しい空気かきまぜ

池の上には ガラスカバー

あらゆるものを従える 冬の使者

 

ロマンの終わりは

荒れ狂った嵐の去った朝

あくびし尽くしたお陽さまが

ほわりほわりと 手のばし微笑む

銀腹に赤い光が 柔らかくプレスされ

ツララの矢から したたる水滴

形を消され 地に吸いとられる 冬の使者



3.卒業式に

 

今年もまた 雪が消えゆく頃

厳かに 卒業式が始まる

いつものように 証書が手渡され

いつものように 送辞の披露

 

喜びの影に悲しみは

明日ここにこないこと

あなたが二度と戻らないこと

さようなら 蛍の光

見えるものなら あなたに捧げたい

 

今年もまた つぼみがふくらむ頃

厳かに 卒業式が終わる

いつものように 校庭にそろって

いつものように 最後の記念撮影

 

喜びの陰に悲しみは

明日ここにこないこと

あなたが二度と戻らないこと

さようなら 蛍の光

見えるものなら あなたに捧げたい



4.春の訪れ

 

春はものうげ たいくつな風

時計の針がゆっくりまわり

お陽さまもなかなか帰らない

ベランダに寝ころんで 一日中

考えることもない

大きな空につつまれて

ここは暖かい ああ 春だなあ

 

春はねむたげ 怠慢な僕

すずめの声がのんびりと

遠くの山も霞のベールに隠れ

ベランダに寝ころんで 一日中

考える人もいない

土の匂いが鼻をくすぐり

ここはぽかぽか ああ 春だなあ



5.清浄のとき

 

今日も一日 やっと終わったんだ

顔も唇も からからに乾いて

ああ 今日も終わった あとは寝るだけ

じきに幸福な世界に 浸れるんだ

毛布をめくり 体を入れるとき

すべての疲れが吸いとられrゆく

 

さあ 眠ろう 何も考えず

 さあ 眠ろう 明日のために

 

今日も一日 やっと終わったんだ

日焼けた足は 棒のようになって

ああ 今日も終わった あとは寝るだけ

すぐに安らかな世界に 入れるんだ

枕に頭のせ 体をのばすとき

すべての苦しみが洗い流される

 

さあ 眠ろう 何も考えず

 さあ 眠ろう 明日のために



6.ひこうき空

 

飛行機が 青い紙の上を

一本の白線を引いた

あお向けに寝ころんだ

僕の上を通りゆく

空の果て 青くぶつかる

 

雲ひとつない いつの間にか

小さくなって すっと消えた

僕に残された憂いだけ

空に広がる ひこうき雲

 

飛行機が 白い紙の上に

見えない糸でかすみゆく

あお向けに寝ころんだ

僕の上を通りゆく

空のどこを 白くさまよう

 

雲ばかり あっという間に

飲み込まれて すっと消えた

僕に残された憂いだけ

空から消えた ひこうき雲



7.創世記Ⅰ

 

僕が生まれるちょっと昔

地球はだんだんまあるくなった

それまで滑り落ちやすい世界だった

まわりは深い海だった

 

人は絶対 落ちないように

真ん中に集まり始めた

人は絶対 生き残るために

すべり止めのでこぼこをつくった

 

山や川ができ 人の心が隔てられ

醜い争いが起きた 続いた

そこで太陽は去り 暗闇の中で

みんな少し賢くなった

 

この頃から地球は

支えていた棒がはずれ

太陽をまわり始めたらしい



8.創世記Ⅱ

 

僕が生まれるずっと前

地球はまだ まあるくなくて

天も地もない世界だった

山も谷もない平原だった

 

平和な村があちこちあった

人はあまりいなかったから

みんな助け合い 働いていた

 

お陽さまは明るく笑って

みんなを励ましてくれたし

お月さまはしっとり微笑んで

心をなごませてくれた

 

この頃の地球は 下から棒で

動かぬよう支えられていたんだ



9.創世記Ⅲ

 

僕が生まれた この時代

地球は本当に丸くなって

星は遠い天に輝く世界なんだ

両極は氷に囲まれた世界なんだ

 

人はたくさん住んでいるのに

ニュートンのおかげでおちない

 

地球は太陽の周りだけでなく

自分自身でも回り続けている



10.一枚のレコード

 

ひとりでいるのはさびしいから

ねむれない夜は

ステレオの音を小さくして

あのレコードをかけます

 

いつも心なごませてくれる

永遠に色あせることのない曲

私たちのすべてが

染みこんだまま 変わらない

 

今は もう聞いても平気

哀しくはない

私のもらった最後の贈りもの

あなたと聞いた最後の歌だった



ひとりで聞くのはさびしいから

ダージリン飲みながら

ステレオの針が上がると

あなたが去ったみたい

 

いつも聞いているあいだだけ

あなたがそこにいる

私たちのすべてが

凍りついたまま 溶けない

 

今は もう聞いても平気

涙は出ない

あなたの残した最後の贈りもの

あなたの旅立つ 形見だった



11.故郷

 

ああ 温かい故郷 振り切って

この街にきたのは

何ともいえない 旅情が

たまらなく好きだから

 

まるで時代劇の主人公のように

荒れた細い古道を歩く

あてもないさすらい人だから

気が向くまま どこまでも歩く

 

小さな店先で 生ぬるいラムネを

愛想のよい オバサンにもらう

この町はさびれて 名所一つないけど

こけびた木の下に 松ぼっくり一つ

 

静かに流れる川のさざめきに

光がたわむれている

橋の上で あの山からの風が

トタン屋根の匂いづく

 

ああ 遠く去りゆく時のように

僕の足あとは残らない

 

よどんだ沼の端で ひと休み

魚釣りしているオジサンと話し

バケツはへこんで 小魚一匹いない

あおびた岩のかげに ザリガニ

 

ヘタな油絵のように

空が広がっている のうのうと

あの林から生ぬるい風が

土くさい枯葉 腐らす



12.白い朝

 

夜が更けゆくにつれて

僕の胸は高まる

ふとんの中で じっとしてられない

体中が燃えてくる

 

今はつかみようもないほど

遠くかけ離れているけど

いつの日か きっと

まぶたの裏に そのころの僕を描く

 

高まりすぎた興奮は

とてつもない苦しみに変わる

いくらもがいても ここから抜け出せない

いつしか 僕は眠りに誘われ

白く明けた朝

 

もう夢も見られない

心は月のように冷めてしまい

どこかに隠れてしまう

 

どこかで呼ぶ声がする

ふとんを投げ出していきたい

綿密に立てたはずの計画は

はじめからダメ出しだ

 

飛び出す勇気もない

熱い心は消え失せ

いつもの僕に萎えてしまう



13.半月

 

僕は何もすることがないのに

ずっとここに いなきゃならない

僕はやりたいことがあるのに

ずっとここから 動けない

 

あれは遠い日の

希望に満ちてた 幼い僕

皆がほほえみを返してくれた

僕は満員バスの人の内を

ぬうのが得意で 吊り輪でターザン

 

三段飛びで バスからおりて

一目散に家まで帰ってた

 

暗い夜道が恐かった

後ろは振り向けなかった

あえぎあえぎ僕は走ってた



僕はいつの間にかここにいて

ずっとこれから いなきゃいけない

僕はやるべきことがあるのに

何一つやらせてもらえない

 

あれは遠い日の

何も知らなかった 幼い僕

皆が上から見下げやがった

僕はデパートのエスカレーターを

逆らってのぼれて 手すりで滑り台

 

閉店まぎわに 店から出て

一目散に 家まで走ってた

 

やっとたどり着いたドアの灯り

一刻も早く 中に入るつもりだったのに

僕は遅すぎた

 

ドアはノックされ 何度叩いても

入れてもらえなかった

 

はかない期待も破られ

石ころ 手にもって

よどんだドブに投げつける

沈んだ町にあきかん一つ

不思議に何も恐くなかったのは

半分欠けた あの月のせいだったのか



14.思い出

 

過ぎた日のことは そのままそっとして

おくのがいいのだろうか

 

無理に掘り起こし

感傷めいた毎日を思い浮かべ

何もできずにいる 今の自分を

苦しめるのはやめよう

 

手を離れた風船のように

遠く雲の中で 見えなくなったところで

きっと割れて落ちてくるんだろう

 

それを拾いにいくのも勝手さ

どこにあるかわかりゃしない

好きなだけ探すがいいさ



過ぎた日のことは そのままそっとして

おくのがいいのだろう

 

やたら考え込み

昔のむちゃくちゃな毎日にあこがれて

ただ 座っている 今の自分を

ののしるのはやめよう

 

あの頃は仲間がいたよ

金はなかったけど 何とか食えたよ

でも寝れない夜が多かったじゃないか

 

それを拾いにいくのも勝手さ

どこにあるかわかりゃしない

好きなだけ探すがいいさ



15.命日

 

君は喪服も似合うね

そんなに悲しい顔しないで

きれいだよ 今日は

ずいぶん大人びちゃって

すました顔がいいね

 

もう忘れちまおうよ 

あいつのことは

いくら待っても 戻りやしない

わかっているよ ずっと想っているのも

だけど・・・

悲しみをひとり占めするのは もうよそう

 

君は線香をあげてる

そんなに思いつめないで

きれいだよ 今日は

ずいぶん女らしくなって

あいつに見せたいよ

 

でも終わったんだ 

君にあるのは

明日だよと 下手ななぐさめ

わかっているよ ずっと君はあいつのもの

だけど・・・

悲しみをひとり占めするのは もうよそう



16.今日はやけ

 

向こうの方の橋から 河原に飛び降り

駆けてくる 無邪気な奴ら

同じような顔して 風にのって

駆けてくる あどけない奴ら

 

水辺にいる 俺のほうに

泥にまみれて やってくる

顔がくずれるほど 笑いながら

汗にまみれて やってくる

 

あいつら 靴も脱がず 川に飛び込み

騒ぎあってる 騒ぎあってる

ぜんぜん飛ばない 石を投げて

喜んでいる 喜んでいる

 

今日はやけに空が青い

俺の心が 躍るから

なつかしいものに会ったように

俺の心が 弾むから

 

目はしょぼくれて 砂をかき集め

穴を掘ってる 穴を掘ってる

シルエットだけが

転がってる 転がってる

 

今日はやけに冷え込んできた

俺は忘れていただけさ

一番星が出て みんな帰った

あいつら 昔の俺なんだ



17.花

 

長い坂をのぼると オレの一日が始まり

その坂を下りると オレの一日が終わる

 

桜が咲く頃は まだいい

いくらオレだって 花は好きさ

 

若葉が茂る頃は まだいい

いくらオレだって 緑は好きさ

 

紅葉してる頃は まだいい

いくらオレだって もみじは好きさ

 

落葉の燃えたあと

白く何も見えなくなっちまう

 

いくらオレだって 知ったことでない

長い坂をまたのぼる



18.自分なりの人生

 

若いうちは けがれのないものにあこがれる

完全なものを求めた 唯一の欠陥も許さない

 

自分自身はそうではないし

ましてや まわりから そう望まれたくない

夢は いつでも大きすぎ

希望はでっかくのしかかる

 

心の中は 果てもなく広いが

それをやれる自分はどこにもいない

 

若いうちは 自ら創造することにあこがれる

成功の喜びを求めるあまり 失敗にめげやしない

 

自分自身そうなるのは いやだし

ましてや まわりから そうされたくない

夢は いつでも大きすぎるし

希望はそれよりでっかい

 

自分なりにやっているけど

やれたことはほとんどない

 

それに気づくのは

取り返しもつかぬほど 遅くなってから

その頃にはもう もうやり直せない

それでも それが自分なりの人生



19.君の行く道は

 

羽をおやすめよ 疲れたら

僕に寄り添っていいよ

打ちしおれた顔は

君には似合わない

 

これ以上 逃げるのはおよし

疲れ果ててしまうよ

僕の手につかまるんだ

何も考えず ただ

 

いくらいっても 君には聞こえない

いつもひとりだ あの山があるかぎり

 

水をお飲みよ 一息ついて

二人でどこかいこうよ

頑強な心は 君を閉じ込める

 

これ以上 隠れるのはおよし

誰からも遠ざかってしまうよ

僕の手につかまるんだ

今日は素直に ただ

 

いくらいっても 君は振り返らない

いつもひとりだ あの山は越えられないのに



20.ガラス窓

 

とうとう つかめなかったね 君の心を

あんなにがんばったことはなかった

僕は精一杯やったんだよ

 

もう二度と 会えない悲しさ

僕は他人以外の何でもない

 

一人ずもうも ようやく終わり

ぽっかりとあいた胸

 

とうとう つかめなかったね 君の心を

君はちっとも知らないことで

僕が忘れれば それでいい

 

君からみれば 何でもない

ガラス窓が曇ったくらいのこと



21.白い手紙

 

白い紙を前にして

ぼんやりため息つく

にぎったペンを 放りだしては拾うだけ

心の中に 詰め込まれたものが

押し殺されている

僕は何も書き出せない

 

これ以上 圧殺しないように

何も考えず 目を閉じている

追いつめるのは 誰?

紙に書こうとしても

僕の筆はすべらない

 

便せんは色褪せた

机に広げたときの瑞々しさは

一言も書かぬうちに消えた

心の中に詰め込まれたものが

眠っている限り

僕は何もできない

 

何も書いてない紙に

ぐじゃぐじゃと

心の模様が写される

悩ませるのは なぜ?

見たくないと紙を

丸めては捨てるだけ



22.便り

 

いつの間にか

途絶えてしまった 君の便りは

ずっと忘れかけていたほど

些細なものになったのか

 

君の手紙を毎朝

門で待っていたのは

たった一つの楽しみだったのに

いったい何だったのだろう

 

すべてが君と

そういうのは 昔も今も変わりないけど

離れるという字を

別れるとでも書き違えたのだろうか

 

だんだん便りが少なくなって

たった一本の糸は

途絶えてしまったのだろうか



いつの間にか

ため込んでいた 昔の便りは

捨ててしまうほど

些細なものになったのか

 

交換日記をつけているように

どんなことでも書いていた

あの頃のたった一つの願いは

いったい何だったのだろう

 

すべてが君さ

そういうのは 昔も今も変わらないけど

心が醒めて君の様子も

気にならないようになったのだろうか

 

だんだん枚数が少なくなってきた

わかっていたけど

もしかすると 「さよなら」といって

僕のことも忘れてしまったのだろうか



23.夜の主人公

 

夜は更けて 街中で起きているのは

僕一人と思いたいけど

いつものことか

町は静まってはいない

誰かがどこかで 何かの音を出している

 

窓のすきまから

風がちょうどいいぐらい入って

こんな夜は 寝るのが惜しいし

目が冴えて

何もせずに ただ ぼんやり

夜の町を聞いていよう



夜は更けて 街中で起きているのは

僕一人と思いたいけど

いつものことか

町は暗闇ではない

誰かが動いて 何かをしている

 

夜の趣きを盛り上げているのは

何かしら



24.門出

 

愛は はかなく

かなしく さみしいもの

終点のない長旅のように

まわりの景色は変わっていくのに

 

列車の中は そのままで

だんだんと気が失せて

小さな駅で降りたくなる

 

広がる草原を

たった二本のレールが

 

ずっと まっすぐに ぶつからず

離れず 同じ調子で どこまでも・・・

 

山にもぐり 川を渡り

晴れたり くもったり 降られたり

送ってくれた人の祝福は

二度と戻らぬ列車に乗っていく



夢の国に行くように

列車は遠く遠く 走る

もりあがった 心がおちて

忘れものをした気になる

 

山につつまれた谷間を

たった二本のレールが

 

ずっと まっすぐに ぶつからず

離れず 同じ調子で どこまでも・・・

 

踏み切りも ポイントもない

町はみえぬどころか 人家さえない

送ってくれた人の祝福は

行き先の知らぬ列車に乗っていく



25.神力

 

君がそこにいるだけで

あやしいまでの世界が広がる

一目でその神秘的な力に動けなくなる

急に視界が消え失せる

 

真っ暗 闇となり

紫 赤の混じった光線が

僕の魂を一気に落とし込む

 

君が微笑をふりまくたびに

すっぱい

音楽が耳をつんざく

 

君がそこにいるだけで

すさまじいほど世界がよろめき

魔法にかかったように力が抜ける

空気が瞬時に無となって

 

君が窒息させるたび

空からジグザグに雷が

地球を割るような

大きな音を伴って

 

僕の一身めがけて落ちてくる

君が声を弾ませるたび

飛行機が落ちていく

そして 僕は僕でなくなる