史の詩集  Fuhito Fukushima

福島史(ふくしまふひと)の詩集です。

Vol.8

Vol.8



1.風にのって

 

風にのって ふるさとに帰ろう

あの丘に登り 大の字になり 土になろう

 

果てしなく澄んだ青い空

草の匂いは すっぱく

太陽はいつまでも落ちない

ずっと そうして

遠く広がるふるさとをながめていよう

 

ふと思い出すのは あの日のこと

あれが最後なんて思わなかったから

ずっと いつでも会えると思っていた

 

何とも思わず 背を向けて

それだけだったのに

それだけだったなんて

二度と会えないことが

今までわからなかったなんて

 

風にのって ふるさとに帰ろう

あの丘に登り 大の字になり 土になろう



2.待合室

 

枕一つ ボロ布にくるんで

静まりこんだ 駅の待合室

ここが今宵の宿屋さ

 

季節はずれで人もいないから

少しさびしいけど

別れた友との感傷にふけるのもいい

 

一人の夜は長いから

明日のことでも考えようか

缶ビール片手に

足音消えゆく 駅のホーム

 

改札口を通る冷たい風

少し肌寒いけど

夜の貨物と感傷にふけるのもいい

 

疲れた体を いたわりながら

毛布にもぐって 夜明けまで



3.かぐや姫

 

すすき野のざわめきに カラスは帰る

それに心のせて 涙ぐむ

 

青く光る竹 こけた丸石

澄んだ水 ひびく音

 

身動き一つせずに

暗い空をみて

 

月夜の光浴び しっとり佇んで

すのこに一人 月を恋しむ

 

悲しみの君 そんな感じが似合う

さびしげな人

 

そでを胸にあて 風に髪を流し

何を思っているのか

ぼくのかぐや姫



4.私は歩く

 

いずこ知れぬ街に夢かけて

夜霧に追われながら

遠い日を思い巡らし

私は歩く

 

誰も知らぬ街に息づいて

朝明けに目をうるおしながら

遠い日に思いをはせて

私は歩く

 

つまづきかけた石ころ蹴って

からみつく 草やぶぬけて

道に出ることを願って

私は歩く

 

星の輝きは変わらず

遠いけれど

いつかきっとたどりつくと

私は歩く



5.今はもう

 

落葉が風に吹かれ 散り舞うように

何気なしに離れてしまった人

秋の虫の鳴くのも忘れて

知らぬ間に雪に閉ざされた世界

 

白い心を抱えて

何知らぬように過ごし

去った日をそのまま

うずめてしまおうとした

 

何をつけても心が君に

結びついてしまう

ほんのささやかな

出来事だったことさえ

 

春の小川が生ぬるいように

何となく湿った思い出が

さっと吹き飛んでしまえば

どんなにいいだろう

 

楽しかった思い出が

知らぬうちに重くなって

帰らぬ日がそのまま

永遠にぼくを苦しめる

 

何をしても心が君に

一人でやりきれない

ほんのささやかな

ことばの一つまで



6.若き者へ

 

若き者よ 行くんだ

希望を胸に抱き

青春という坂道を

涙と汗にまみれて

 

いつか その苦しさが

悲しみが なつかしく

うらやましくなる日まで

全力で輝く太陽のもと

自分を信じて歩もうよ

 

若き者よ 行くんだ

あふれる夢おうて

青春という架け橋を

悩み傷つきながら

 

いつか その愛が

友情が 打ち勝って

真のものとなる日まで

振り返らずたぎる血潮に

自分をぶっつけて歩もう

 

若き者よ 行くんだ

たとえ 何があっても

青春という虹を

勇気と若さで築きながら

 

いつか その挑戦が

根性が 真にはぐくまれ

何にも負けぬ 自分となる日まで

 

青春 かけがえもない

若さ 我らがもちえる

この清き時代を



7.青い小鳥

 

さよならさえ忘れて

口ずさめない青い小鳥

愛した枝を離れて

今 青い空に飛び立った

 

行き先さえも 知らずに

風にあおかれる 青い小鳥

愛した森を離れて

今 青い海をわたった

 

何もかも忘れて

夢しか見られない青い小鳥

病んでいることさえ知らずに

今 たった一人ぼっちになった

 

愛した枝が恋しくて

愛した森がなつかしく

 

日の光が一段

まぶしくなったとき

疲れ果てた青い小鳥は

羽を休める場所もなく

 

空 青い空に吸い込まれた

海 青い海に引き込まれた

 

さよならさえも忘れて

行く先さえも知らずに 青い小鳥は

愛した地を離れて

今 空と海に引き裂かれた



8.ラ・メール

 

さらば夏の日よ 太陽よ

白く波打つ 青き海よ

 

砂浜に残した足跡が

波にさらわれ消えるころ

夕焼け空に あの海が

燃えるころ

 

また会おうよ この浜で

この楽しかった日々を 

もう一度 過ごしてみよう

星がのぼらないうちに

 

僕は帰る けども

きっと もう一度 来る

君に会いに

 

砂浜で焼かれた体が

その思いを呼び起こす

砂浜に残した足跡が

波にさらわれ消えるころ

 

夕焼け空に 君の笑顔を

懐かしく思うころ

 

さらば夏の日よ 太陽よ

白く波立つ 青き海よ



9.ギター哀歌

 

日暮れては 部屋の壁にもたれて

白いほこり 吹き飛ばし

窓をあけて ギター抱える

 

さびれた音が 僕に語りかける

弦を一つ弾くごとに君のことを

思い出の曲は もう古すぎて

君と一緒に消えてしまったみたい

 

いつも隣に座って聞いていた君

指の動くのが不思議な顔してみていた

いつの間にか 口ずさんでいた

君が 急に僕をみつめるとき

いつも僕は間違えていたけど

 

何度教えても 上手く音が出ず

白い指をうらめしくみてた君

聞くほうが楽しいなんて 強がって

あの頃は空も街も みんな美しかった

 

今も一人 君に語りかける

弦を一つ弾くごとに 君のために

思い出の楽譜は もうさびしすぎて

君をいつまでも恋しがっているみたい

 

そんなことしかすることがなかったあの頃

君と楽しい日々を過ごしているつもりだったのに

いつの間にか 弦は切れていた

君が急に僕から去ったとき

相変わらず 僕はギター弾いてたけど

 

あの頃の空や街の美しさは

もう戻らない



10.断罪!

 

虫がいっぴき 電球に

しがみついたかと思う間もなく

落ちていった

 

誰も知らぬところで

何かが起こった

柔らかによそおった光が

冷たく輝いて 断罪!

 

蒸し暑い夜 その窓を

開けてみたらと思うのだけど

むかつく空気に触れたくない

 

誰も知らぬところで

何かが起こった

すーと 窓の向こうの星が

線を引いて流れて 断罪!



11.薄幸

 

触れた手の冷たさに驚いて

みつめた君の瞳の中に

白くうつろう初雪

夕暮れの公園にさまよう二人

わけもなく 風に揺れるブランコ

毎日がただ 過ぎていくだけ

 

すました耳の果てに聞こえる

哀愁さそう 汽笛の音を

白く消えゆく初雪

星一つ出て 話し尽きた二人

ぼんやり照らす 街灯の下

つかんだはずの幸せが

また逃げていく



12.Uターン

 

帰ってきたよ この町に

何も変わっちゃいないな

都会の風に吹かれて

俺もずいぶん汚れちゃった

そんなことどうでもいいさ

ここは 俺のふるさと

 

帰ってきたよ この町に

とうとう我慢できなくて

灰色のビルの中で

俺もずいぶんすり減っちゃった

そんなことどうでもいいさ

ここは 俺のふるさと



13.悩み

 

恋しさに 何も手につかず

君を思い浮かべる

だけど 僕は遠くから見てるだけ

何一つできない

 

摘めない花なら 咲かないで欲しい

色鮮やかに 香るたびに

僕は心を痛める できることは

君を見ないように 避けるだけ

そんなことしか できない

 

恋しさに 心安まることもなく

君がそこにいる

だけど 僕は君の眼を見られない

一言もしゃべらず 立ち去る

 

美しい花なら 眺めていればいい

そこにじっとしている君に

僕は頭を抱える できることは

君に会わないように 閉じこもって

そんなことしか できない



14.反転

 

となりの家から 夕食時だろうか

にぎやかに笑い声が聞こえる

とても幸せそう、だ なんて

昨日までの僕は

誰にも負けぬほど幸せだった

 

そして その終わりの日は

とても とても 長かった

 

何が僕らをうらやんで

運命を変えたのだろう

いつの間にか 装っていた幸せは

風船のように ふくらんで

なかには空気しか入っていなかった

 

気付かないまま いつの間にか

たるみ ゆるみ つぶれていた



15.君を残して

 

君の声が 教室から聞こえる「さようなら」

放課後の校舎は ひっそりしずまり

忘れ物を取りに来た 僕は

恋におちる 夕陽をみていた

 

君は腰掛けて汗をぬぐっていた

空がやけに広く からっ風の教室

君と二人っきりになれた 僕は

窓をあけて 空の色を考えてた

 

君は何も言わず こちらを見つめてる

グラウンドが柔らかく見えた

はえすぎた芝生にサッカーボール一つ

空白な時間が恐ろしくて 僕は

その窓を通り抜け 門まで走った

 

君を残し 君を残し

僕の人生から 君を残して



16.枯れる

 

心の中に植えた木が

実らないうちに枯れてしまう

一枚一枚 葉がおちて

寒々とした風にあおられて

枯れていく

 

太陽に青い葉を伸ばし

まばゆいほどに輝いていた

一周り二周り 枝が伸びて

暖かな日差しにはぐくまれ

伸びていた

 

強い風に耐え

遠い星に近づいていた

一日一日と色あせて

引き締まった幹は もう伸びようとせず

昔の夢ははかなく 枯れていった



17.秋の夜更け

 

秋の夜は更けて 星がきれいだ

軒下に揺れる 風鈴の錆びついた音が

つまみのないビールにあう

 

風流人ぶって 庭の池をながめていると

いつの間にか ほんとうにそんな気がしてきた

ぼんやりと体が冷えて 季節はずれの蝉の声

黒い池のうえに 半分隠れた月が

 

秋の夜は更けて 星がきれいだ

祭りの笛の音の こまやかな余韻が

いまだ 耳に残って消えない

 

風流人ぶって 扇子取り出してみたら

知らぬうちに 本当に秋らしくなっちまった

ほんやりと心が冷えて しめやかな庭の石

色ついた木の葉を 半分枯れた月が



18.夢の条件

 

夢は覚めてから

そう名づけてもよいだろう

しかし まだ見ぬものを

夢にしてよいはずはない



19.その先には

 

あの日を私に返して

すばらしく 弾んだ あの日を

果てしなく 遠く 夢にあこがれ

街をかけぬけていった

 

空が白くなるのを待てずに

起きて 飛び出した

何も持たず 線路にそって

ずっと 歩けるだけ歩いた

終着駅で 道は途切れた

そこには 海があった

 

あの日を私に返して はちきれそうに

すばらしく 広がった あの日を

僕だけがわかる夢を追い求め

すべてを投げ出した

 

日が暮れたのもかまわずに

星の明かり たよりにした

誰もいない そんな村をぬけて

ずっと歩けるだけ

曲がりくねって 道は途切れた

でも そこには 夢があった



20.彼は大人なんです

 

彼との出会いは

いつの日になるのか知りませんが

私の覚えている限りでは

三年前あたりではなかったでしょうか

 

きっちりと着こなした彼はどうしても

私と同じ歳とは見えず

やることすること 何でも手慣れて

まるで人生を二度歩いてるみたいに

見えたものでした

 

そんな彼が恐かった私も

少し大人になって

なんとか彼の紳士気取りに

ついていけるような気がしてきました

 

彼との約束のないデートは

いつも気まぐれな彼のおかげで

私の覚えている限りでは

およそは 取り止めになりました

 

すっかり気取っている彼は

どうしても私のわからないこと

やることすること

何でも指一本でやりました

まるで人生を ゲームのように

軽く戯れていた

 

そんな彼がわからなかった私も

少し大人になって

なんとか彼の紳士気取りに

ついていけるような気がしてきました



21.過ぎいかぬ

 

時は過ぎていくもの さらさらと

わずかに 確かに 

窓辺で本を開いて

風に髪をながして 外をみる

日差しはまぶしく 小鳥がさえずっていても

それはやがて止む

 

いつも同じ それが私を苦しませる

止められたときが

そこに そのままあるから

なのに あなたがいないから



22.もっと自由を

 

もっと自由をください

失われたものを求めることは 難しいことです

新しいものをつくり出すことより

もっと難しいのです

 

だから もっと自由をください

自由がなかったころの自由でよいから

自由にあふれているような 自由でなしと

私たちに もっと自由をください



23.つのる

 

日は暮れていく あかあかと

なまぬるく 手あかがついて

窓辺で本を閉じて

ガラスに息を吹きかけて 今日を消す

さびしさは かき消しても

心の中で大きくなる



24.私の心の中

 

歌おう 踊ろう 語り合おう

燃えている心を 体で感じよう

幸せは 輪になること

心が通じること

素直に手と手を結びつけること

 

誰も知らない私の心

笑顔の奥にそっと隠しているから

 

みんなの前では

できるだけはしゃぎまわって

歌っていれば それでいい

みんなは 幸せそうに私をみるし

私もそのときは幸福だから

 

一人二人と さよならを告げていき

一人になると 私もさよならと

みんなにいう

 

遠いところに行ってしまいたい

私ができるのは この日々を

思いっきり生きることだけ

 

沈滞している心を

体で燃え上げよう

幸せは 声を出し合うこと

体を動かすこと

今は ここにしかない

何かを感じさせるんだ

 

誰も知らない私の心

誰にも悲しみを分けたく思わないから

 

みんなと一緒にできるだけ 暴れまわって

踊っていれば それでいい

みんなと踊っていれば それでいい

 

一日一日 欠けてゆく

私もみんなと離れ 星の間をさまよう



25.放課後

 

誰もが幸せに感じるのは 6校時の終わり

ベルと同時に目が覚めて

学生服を脱ぎ捨てて

ロッカーから ギター取り出し 歌いだす

 

窓の外には

真っ黒な奴らがボールを追っている

木陰で 可愛い子が2、3人

笑いながら 話している

 

なのに なぜ 君は出てこないんだい

あの太陽も青空も君のためにあるのに

土にまみれ 汗を流して

出せる限りの大声で叫んでみな

 

あの白い雲も 遠い山も 君に答えてくれる

君がどんなにカギをしめても

すきま風は 君の心に入り込むよ

 

君はがまんしてるんだ いつかのために

今日の喜びを 明日に求めているんだ

いつの間に そうなったの

 

昔の君は素直だった

出会うことに喜び 自ら出かけていった

まだ遅くない 大人ぶるのは似合わない

君の心は まだ純情だから

そして君は 真実を求めているはずだから

 

幸せ感じるのは

あたりがすっかり暗くなって

校庭にも人影がまばらに

夕陽が照り 赤く染まる教室

汗がひいて 体が涼しくなって

ちょっと小さい夕食会

 

校庭にはポールの影が伸びて

ロマンスのシルエットがポツリ

カバンをもって 髪の長い子が誰かと

静かに遠のいていく

 

なぜ君は出てこないんだい

あの星も満月も君のためにあるのに

ほこりにまみれ 草の匂いをかぎ

出せる限りのスピードで走ってみな

 

あの流れ星も枯れた野も 君に答えてくれる

君がどんなにそれを見てみぬふりを装っても

燃える炎は 君の心に入り込むよ

君はまちがっている いつかのために

青春の喜びを過ぎたものにしているんだ

 

昔の君は無邪気だった

出会うものに感じ

いつまでも 別れたがらなかった



26.後悔

 

この歌を聞くと 涙が

頬をつたい 体が熱くなる

私の歌だから

生き抜いていたころの歌だから

この歌は消えない いつまでも

 

時代だけが通り過ぎ

たまらない 寂しさが胸をしめる

燃えつきるまで

今も私に力を満ちさせてくれる

 

それが苦しい 忘れたいほど

ボロボロに汚れちまった 

さらさらの この歌だけが

本当の私かもしれない

 

私の愛の歌だから

あなたを愛し抜いていたころの歌だから

その一途な愛だけが

たまらない悲しみに涙する

 

今も私にあの人の面影を偲ばせる

大人になった私は

あの人にさようならしたのに

この歌だけが

本当の私の愛だったかもしれない



27.貝殻

 

手からほろっとおちて砕けてしまった

これで終った あなたとすべてが

涙さえ乾ききったのに

潮の匂いのする貝殻

 

あなたの足元に光っていたのを

私がみつけて とっておいた

暗い空に 暗い海 波の音が

私たちを黙らせた



28.海辺

 

一晩中 歩いた どんな日でも

あなたは会いに来た

いつとなく あなたは去った

何も言い残さないで

 

割れてしまった これで去った

あなたとともに すべてが

幸せと 悲しみが

ぴったりと結ばれていた

 

海の香りのする貝殻

初めてあった日

そんな予感がしたので

海辺で見つけて とっておいた

暖かい日に暖かい手 体を寄せて

私たちは見つめていた

どこまでも いつまでも



29.気をひくのに

 

わざとらしく大きな声出して

通りかかった君の気をひこうと

できるだけ かっこつけて

見ている君の気をひこうと

そんなことばかり考えて

いつもパッと消える君の気をひこうと

 

悩んでいる振りをして 何ら考えていない

ギター持ち出して

歌の好きな君のため

リクエストに答えられないレパートリー

教科書ガイド暗記して

僕よりできる君の前に手をあげて

スラスラ簡単に解けるはずだった

 

せっかくいいところまでいきながら

通りかかった君の前で

通りかかった人にうるさいと

見ている君の前で

石ころにつまづいて

 

パッと消える君の前で

パッと消えられない



30.雨あがり

 

雨あがりの空は

日の光が一段とまぶしく流れゆく

白い雲に押されながら

 

すっかりきれいになった機関車は

色とりどりの貨車をひいて

牧場に出てきた牛たちは

いつもよりもせわしない

 

雨あがりの空は 青空がのぞき

電線の陰がくっきりと

草の上にのった露が

キラキラと輝いている

 

しっとり湿った道は

たくさんの水たまりができ

黄色いレインシューズ履いた子供たちが

傘振りまわし 飛び跳ねている



31.180°

 

僕の運命は

あの日 あの朝 あのときに

180°ぐるりと回った

その日 その朝 そのときに

僕は徹夜がこたえて

公園のベンチに眠りおちた

 

この日 この朝 このときに

僕は道を尋ねたけど

めんどくさげに存じませんと

妙に艶しい女が答えた

 

昼前 どっかで聞いた歌を

口ずさみながら

我が家にたどり着いた

 

僕はそこに どこかで見た

女がいるのを見た

考えても思い出せない僕は

前にいる女に聞いた

それが運のつきだった

 

そのとき 僕はその女と一生

違う星に住むことにした

 

僕の運命は あの日とその日

あの朝とその朝

あのときとそのとき

90°と90° 180°ぐるっと回った

 

僕の運命は あの日とこの日

あの朝とこの朝

あのときとこのとき

180°と180° 180°ぐるっと回った

 

朝刊配達中 ある家の前で眠りに落ちた

神様に心から願ったものを夢みて

昼過ぎころ ベッドで目が覚めた

 

僕は その家が どこで

なぜここにいるのかわからない

でも 横にいる女と

同じ星に住むことにした



32.白いノート

 

ノートに思いつくまま

ペンを走らせて ときどき

天井を見上げてふっと

ためいきついています

 

もうこんなに大人になってしまったんだね

時が何も言わずに流れていき

後ろからさようならって

ささやいているのでしょうか

 

思い出が積み木のように重なって

今日てっぺんに一つ加えます

今にも崩れそう

もっとうまく積めばよかったって

思っても直すことはできません

 

いろんなことがたくさんあったね

人がいつの間にか 周りの人が変わっていき

みんなそれぞれの生き方をしているのでしょうか

 

このページももうすぐ終わりです

明日は音もなくそっと忍び寄ってきます

 

過ぎた日がまるで人のもののようになって

今日また自分から離れていきます

歌が終るとなつかしい思い出も

同じようにすっと消え 二度と戻ってきません

 

いろいろなことがたくさんあったね

町がいつの間にか 知らないうちに変わっていき

友だちにもそれぞれ成長しているのでしょうか

 

このページをめくると 真っ白

明日はどんなことが書かれるでしょう



33.テーブル

 

月に雫が半分かかった夜

いつだったか 遠い昔

そんな夜があったように思う

 

君と別れたときだった

その日がくるまでの長い間

僕は悩み苦しんだ

いろいろ考えに考えた

君がいなくなればどうなるかなんて

 

そうしているうちに とうとう

その日になってしまって

その日は何があったか

わからないほどあっけなかった

 

君と最後の夜の街

歩きまわって 思い出のところ 駆け巡って

話し残したこと 言いたかったこと

たくさんあったはずなのに だまって口づけして

みつめあったっけ

 

その日の朝早く

君は荷物をもって挨拶にきた

「さようなら」 それだけだった

僕はことばも返せなかったし

見返ることもできなかった

 

そのまま ぐっすり眠った

そして いつものように朝食をとった

何も残らなかった

思ったほどさびしくなかった

あっさり忘れてしまった 何もかも

そのときは



34.消えた恋

 

あれから二年たって

一日たりとも 忘れなかったあなたが

しだいに薄くなっていき

今では そんな人いたっけなんて

幼い頃の記憶のように

ぼんやり あやふやに

そう もう私には何も関係ないの

 

あなたのしみこんでいたものは

しだいに消えていき

今では そんなものあったっけなんて

何もかも消えてなくなり

自然に そう静かに

 

そう もう私には何も関係ないの

そうなるはずだったのに

 

もう一度 帰りたい あなたが

とてもすばらしくみえて

あなたをとても愛した私

その私もどこかにいった

そのあなたもどこかにいった

目の前を通るあなたも

私には素知らぬ人となってしまった

 

恋が愛が心が消えてしまった



35.22時

 

クリスマスの22時

もし僕が あの駅に来なかったら お別れだよ

といいながら そのとき

僕は行かないことを決めていた

 

君の愛は僕にとって

なければならぬものだけど

それがすべてをぶち壊す

 

君との愛は それ以上の

価値のあるものだけど

僕は行かなくては

君を振り切っても

 

待っていてくれる君を 僕は見てる

ホームの柱の影から

次の列車が来るまでは

 

君は待ち続ける 僕は見守り続ける

 

ずっと 君との愛は僕にとって

捨てることのできないものだけど

それが すべてを妨げる

 

君の幸福 僕は願い続け

明日から離れてしまう

悲しみ振り切って

君の去るのを待っている



36.河原

 

いつも君と二人でいった

あの橋の下の河原

あたたかい太陽が

二人をやさしく照らしてた

 

君のことばは いつにもなく流暢で

君の瞳は いつもよりも輝いていた

 

二人をさまたげるものは 何もなかった

時折 橋をうねらす 列車をのぞいて

 

なのに

この時の流れは 今も絶えないのに

橋を渡る 汽車の汽笛が悲しい

今はもう 一人きり

 

なのに

この詞の流れは 今も絶えないのに

橋ゆく汽車の汽笛 悲しい

今はもう 一人きり

 

あたたかい太陽が

いつ知れず隠れた

雨に濡れることさえ

うれしくて 君の髪は美しかった

 

二人はゆっくり 橋の下に行った

そうすることが ロマンスだった



37.時は流れ 人は去る

 

なぜ時は流れ 人は去るの

誰がそんなことを決めたの

ずっと昔から そうなっているの

どうして時は流れ 人は去るの

人の心を悲しませ 傷つけ

感傷の中で暮らすの

 

そうしたのは 誰なの 教えて

いたずらキューピット それとも可愛い悪魔

これ以上私を苦しめないで

無理なことをお願いはしないわ

ただ すべてを忘れさせて

もう二度と考えたくはないの

 

なぜ時は流れ 人は去るの

誰がそんなことを決めたの

人は生まれたときから そうなっているの

どうして時は流れ人は去るの

人の心を振り返り

そしてなつかしみ 思いにふけって生きるの

 

アダムとイブ それとも

ロミオとジュリエット

これ以上 私に寄り添わないで

あの日を戻せはしないわ

だから すべてを忘れさせて

もう二度と考えたくはないの



38.透明な風船

 

何があるっていうんだい

愛する僕の世界に

あこがれ 愛 そんなもの

そんな形のないものが

風船のように ただよって

上にもいかず 下にもおちず

少しの風のなすままに

さまよっているんだよ

 

それが僕の愛するものか

空虚だ 何もない

赤い風船なら 赤いといえるし

青い風船なら 青いけど

 

僕は透明な風船

たまに色がつけばいいのに

いつも形も見えない

中味がからっぽなのは

僕の運命 形さえ 認めてもらえぬ

 

透明は悲しすぎるほど純情で

染まる色などない



39.詩4首

 

試合終え 駆け込む店にみつけたり

若き日 抱きしめし一冊

 

降る雪は ふんわり やさしく

積もりし雪は 憎らし歩かせぬ

溶ける雪は 何より悲し

哀しみは苦しみの及ばぬところなり

 

一日かけ 求めし本はみつかりし

夜風 冷たく 心あたたか

 

手にとりて めくればうれし 啄木の

昔おぼえしかの唄を口ずさむ



40.幸福論

 

なぜそんなに悩みたがるの

君は青春のど真ん中にいるのに

高い空は伸ばした手のずっと上

見上げてごらん 微笑んで

ただ それだけでいい

 

夕日を思い浮かべ 泣いたって

涙が尽きる頃には また日は昇る

精一杯 朝の空気を吸い込んで

湿っぽい朝もやを吹き飛ばし

走ってごらん 息が続く限り

君はいつのまにか 若さに出会うだろう

 

この道を歩いていた

一年前は幸せなんか 感じなかった

今日と同じような夜だった

それが当たり前のように思っていたし

確かに それが当たり前であった

 

幸せというものは 過ぎた後で気付くもの

そんなことばがあったのかしら

気付いたときはもう遅すぎるなら

幸せなんて ないことになる

 

だから今日一人で 歩くのも当たり前

そう思っていても ネオンの光に

外れて 一つひびく

足跡はさびしい 思いがつのり

こんな私の幸福論となったのかしら

 

なぜそんなに悲しい顔するの

広がる海は見渡す限り ずっと向こう

見渡してごらん そして微笑んで

 

闇夜を思い浮かべ やるせなくったって

どこかにきっと きまぐれな星がいる

悲しみを夜の静けさにそっとおいて

名残惜しさを振り切って

叫んでごらん 声が続くかぎり



41.街角で

 

泣いているとは思われたくないの

哀しみは通り過ぎていくのに

涙だけが頬をつたうだけなの

 

通り過ぎる人が首をかしげ

それでも人ごとに過ぎない

暗い空がなぐさめてくれる

誰にも辛いことはあるもの

 

心のもやを取り払え

そんなに小さく片隅で 震えていないで

あの雲を切り開けば

暖かい日差しがみえるだろう

 

あの空を突き抜ければ

何も沈んだものなどないさ

そんなこと できないことさ

それなら それでいいさ

 

無理に笑おうとすれば

よけいにものさびしくなるし

流れ涙も 尽きるだろう