史の詩集  Fuhito Fukushima

福島史(ふくしまふひと)の詩集です。

Vol.9

詩Vol.9



1.悲しむなよな

 

そんなに悲しむなよな

俺だって 悲しいよ

叫び疲れて のど枯れて

結局  昨日とまた同じ

友もなけりゃ 酒もない

女もなけりゃ 飯もない

みじめだよなー

わかるよ わかるよ わかっているよ

いいかげん 自分を慰めていると

よけいみじめになっていく

 

でも 俺しかいない

いや 俺がいる

俺だけはわかっているんだ

 

雨が降り降り 雨が降る

その一滴一滴が 恨み言だとしたら

今日は何と 怨念に満ちた日だろう

あの中には 俺のもある たくさんある

ずっと ずっと 昔から

俺の涙は尽きなかった

ちょうど天にのぼって

俺に帰ってくるころだから

 

どら 出迎えにいってやるか

・・・そんな必要もないか

雨がつらい思い出 ぶら下げてこなくても

あのころ以上に 悲しみ溢れた

毎日をもらっているから



2.鳩が飛ぶ

 

鳩が飛ぶ 雨に打たれて 鳩が飛ぶ

今日こそは 注目を浴びるだろうと

鳩が飛ぶ まわりを見渡し 鳩が飛ぶ

能力なしの 弱虫ども

鳩が飛ぶ 満足げに 鳩が飛ぶ

 

誰もみていやしない 

たとえ 空をあおいでいる

人がいても 暗い空

なんで鳩がみえようか

 

それでも 鳩が飛ぶ

雨に叩かれ 鳩が飛ぶ

雨滴が顔にささる 痛さこらえて

 

鳩が飛ぶ 俺は飛んでいると 鳩が飛ぶ

ただ 己が納得するために 鳩が飛ぶ



3.ある恋

 

あるいは あの恋は

なんでもない すれ違いだった

それを これまた ご丁寧に

僕という男は はしゃぎまわって 顔ゆがめて

あ~ こりゃ恋だなんて

無理やり決めちまったんだよ

 

今 思うと ずいぶん昔になっちまった

恋とやらも ずいぶん無責任

いろいろな感傷をやたらと強いて

人を悩ましやがって 挙句の果てに

たどって たどって 根源を

つかまえようと 追いかけてみれば

 

夢か本当か はたまた幻想か

思い出筋がぽつんと途切れてやがる

忘れちまったよーって 投げ捨てておこうにも

なんだって そんなにしつこく付きまとう

 

あの人去って あの想い去って

取り残されちまった

俺にいったい何の用がある

あの人が忘れた分だけ

俺が引き受けちまったわけ



4.街

 

幸せ探しに汽車に乗り込みました

そう言うと ずいぶん素敵だけど

不幸に追いかけられて 街を捨てたのです

どうせ嫌な思い出しか 持っていなかったから

 

何も心残りはないけれど

街が窓の後ろに流れていくとき

胸にかすかな痛みが走りました

 

生れて今まで育った それ以上は

何のゆかりもない街だけど

憎むことしか知らなかった街だけど

闇に消えていく街をみていると

やっぱ 俺の街だとよくわかる

 

明日は見知らぬ街で

新しい生活が始まるさ

最後に一言 

なかなか いい街だった



5.雨よ降れ

 

雨よ

そうだ 降れ 降れ

遠慮なんかいるもんか

どんどん降れ

 

悲しいのなら

涙出るだけ 流してしまえ

怒り狂っているなら

雷鳴響かせ 山も街も

すべて 流してしまえ

 

何もかも 遠く深く

海に沈めてしまえ

それでも 足りぬなら

地球など 真っ二つに

割ってしまえ

 

堕ちた楽園などいるものか

腐りきった人間などいるものか

流れに任せば 濁りゆくばかり

どうせ破滅する人類だ

 

追いつめ 切腹させるよりは

早いとこ 清い天上の水で

一掃しちまえ

 

雨よ

そうだ 降れ 降れ

お前をバカにした人間どもを

いなしてしまえ



6.おちぶれちまった人

 

おちぶれちまったって

あんたは自分をけなすけど

そんなあんただから

そっとなぐさめたくなる

 

あんたは グラス片手に

陽気に笑っているのが

一番素敵さ

 

ヘタな同情よしなよって

あんたは自分をつっぱなすけど

そんなあんただから

そのまま昔に戻れる

 

あんたがのぞいた世界が

あんたに教えたことは

楽することと賭けること

そんな世界に耐えられなかった

 

あんたはちっとも変わらない

危ないこともあったけど

人間の心の中に戻ってきた

 

さあ 乾杯しよう あんたが無事に

おちぶれちまったことに



☆7.笑わないで

 

笑わないで

そんなに明るく

何もかも幸せ一杯

世が平和に満ちているかのように

笑わないで

まるで何も知らない嬰児(みどりご)のように

 

あなたは笑う

あっけらかんとした表情で

あまり底ぬけに笑うものだから

あなたの周りの空気から

壁から 何から何まで 笑いが移って

ほら 僕まで笑いたくなってきた

 

笑いたい そんな誘惑に感じながら

僕は固く心を閉ざす

せめて笑える日がくるまでと

君は笑う そんな日が来るものですか

 

笑えるときに笑っておくのよ

でも 今笑ったからって どうなるの

笑っていなけりゃ

笑いも忘れるものよ

 

あなたも いかが

幸せと同じよ

僕は一つだけ

あなたの笑いを受け取った

 

それで充分すぎるぐらいだった

なぜって 今度はあなたが

笑わないで と僕に

頼んでいるのだから



8.なぜ走る

 

なぜ走る

そんなこと判らないよ

ただ 走っているのさ

 

なぜ走る

走っているってことが

わかるからさ



9.太陽よ

 

太陽よ 君は

そんなに美しく沈みながら

明日もまた天まで上るのか

 

月よ 君は

夜にロマンを与えているようで

ちゃっかり主人公におさまっている

 

星よ 君を

描いたデザイナーは

さぞかし 有能だったことだろう

 

海よ 君を

すっぱりと おさめられる

胃袋が欲しい



10.人間よ

 

人間よ 君たちは どこに進もうとしているのか

厳しい自然に これほど立派な道をつくりあげ

今だ 一息もつこうとしない

 

人間よ 君たちに 限りない前進を命じた

それほどの幸福はないと 私は信じていた

けれど それほどの不幸もまた なかった

 

人間よ 君たちの前進が 内面に向かうよう

私は海をおき 空をおき 止めるつもりだった

けれど 君たちは かまわず進み続けた

 

人間よ 君たちは 進むことしか知らない

願わくは そう遠くなかろう

人類の終着点にも その意気で

突っ込んでくれるように



11.だめだ

 

だめだ

君は20年生きてきて

未だ人生を歩めず

 

だめだ

君は今 燃えていなければ

ならないはずだ

あと何年も生きられると思うな

 

明日は身動きとれぬように

なっているかもしれぬ

それを否定できるものは何もない

 

たぶん明日も今日のように

終わるだろうなどという

漠然とした予感を抱いてはいけない

 

明日は君は

走らなければいけない

さもなければ 両足を折って

動けなくなるだろう

 

少なくとも そう思え

だから 今日は安らかに眠れ

明日の活力のため



12.20歳

 

なんて重いんだ

もう動けない

遅すぎた

 

ここまで生きてきた

精一杯やったつもりだった

でも何をやったかといえば

何もやっていなかった

 

今からでは 遅すぎる

もはや 体は動かない

なんて重いんだ

この年月は

 

今からでも できることはないか

捜せば 捜すほどない

僕は生きたつもりだった

誰よりも生きたつもりだった

 

それが平凡だったんだ

僕は人並みほどにも

生きていなかった

 

人がそう見るように生きてきた

だから いかにも生きたように思えた

真に 生きたことはなかった

今こそ 認めよう

 

もう遅いなんていうのも

人と比べるからなんだ

絶対的に生きるのに

他人はいらない

 

やっと希望がみえてきた

薄い 薄い光だが

この年を原点において

今度はもう10年しかないと

生きてやる



13.生きるとは

 

生きるとは何ぞやと

やたら頭抱えて

考え込んでいるうちに

眠っちまった

 

気持ちよかった

何もかも忘れて

眠っちまった

 

こんなに眠れるものなら

この問題もそれほど難しい

ものではあるまいな

 

そうだよ そうだ

簡単だ

眠っちまえば

簡単だ

 

天井の下に

大きな子供が一匹

子供らしさを失ったのに

大人にはなりきれない

半端な半端な

小さな大人な一匹

 

うろちょろ うろちょろ

長い長い橋の上を

いったりきたり

なかなか真っ直ぐには

渡れない

 

それでいいんだ

渡っちまったら

橋なんて

なんて短いものなんだろう

 

青春なんて

青春なんだ



14.髪の毛

 

髪の毛をお伸ばしよ

サラサラ サラサラサ

風になびかせよ

ソヨサラ サラソヨサ

 

充分きれいになったら

水におひたしよ

ツゥー ツゥー

水におひたしよ

明朝までに乾くから



15.失った愚かさ

 

暖かい巣の中から見た空は

とてつもなく美しかった

それにあこがれこがれ

いつの日か

あの大空を我もの顔に

飛びまわれることを思い

一途に生きてきた

 

年は 待たずとも 流れ

僕も大空に飛び立った

飛び立ってみれば

空虚な空間だ

 

空のどこが青く 美しい

雲のどこが純白か

太陽なんて

別世界のものじゃないか

 

こんなものにあこがれ

一途に生きてきた

その愚かさが

今はうらやましい

 

空からみるちっぽけ巣は

哀れを超えていた

愚かさを失うという

愚かさを犯してしまった



16.波の追憶

 

ボクはいつのまにか

歩くのをやめて

列車に乗っちまった

行き先のわからない列車に

どこかに着くだろうと

外の景色も見なかった

 

いつまでたっても

列車は停まらないものだから

僕は降りられなかった

今 考えてみりゃ ありゃ

あのとき 僕は

青春を発ったのだ

 

波の間をやどかりが

歩いている

君には砂と塩水しか

わからないだろう

どちらもすこぶる

厳しいものだろう

 

波の上を僕が歩いている

僕には砂浜と海がわかる

どちらも案外

優しいものだろう

 

ここはやっぱり君の世界

僕の住むところではない



17.列車よ

 

列車よ 歌うな

カタコト カタコト 歌うな

それでなくとも

僕は疲れているのに

 

列車よ 止まるな

カタコト カタコト 歌っても

それでもよいから

僕の眠りを妨げるな

 

窓から絶えず

新しい風を入れてよ

さもなきゃ 

僕は腐っちまう



18.海

 

積もりに積もった悲しみ

溜まりに溜まった不満

押し寄せる怒り

落ち込んだ憂いの色の海

 

おまえは

青い空のなかにも 嵐を見

嵐のなかでも

青い空を見ていたのか



19.杉の木

 

なぜ お前は

それほど

まっすぐ

天に向かって

伸びるのだ

 

なぜ お前は

それほど

しっかりと

地に深く根をおろすのだ

 

なぜ お前は

それほど

心を少しも乱さないで

いられるのか



20.投函前後

 

手紙を書きました

何度も何度も書こうと思っては打ち消し

何枚も何枚も書いては破り

それでも書かずにいられませんでした

出してはいけないいけないとおいたまま

それでも出したくて出したくて

 

結局 胸にあて 自分の心で温め

奇跡さえ起こらぬことも わかりすぎているのに

最後の最後まで 手を離すのをためらい

あまりに胸が苦しくなって

その拍子に投函してしまいました

 

明日は貴方の手にわたるでしょう

貴方は何気なく裏を見

私の名前を見つけて不愉快になるでしょう

そしてきっと その辺に投げておくでしょう

そのまま捨てるのかもしれません

 

お茶を飲み終わって 手持ちぶさに

乱雑に封を切ってくれるかもしれません

細やかな字にうんざりして

貴方はそのまま その辺においておくでしょう

 

もし もしかすると 少しは

気まぐれに読んでくれるかもしれません

でも何事もなかったかのように破って

くず箱に捨てるでしょう

それがわかりすぎているだけにつらいのです



21.報われぬ想い

 

ただ一人の姿だった

僕のすべてだった

 

そんな僕は貴方には

単なる一人の子供だった

貴方の添え物にも値しなかった

 

胸が 焦がれて 焦がれて 焦がれて

報われぬこと わかりすぎているのに

どうして むやみに焦がれるのだ

忘れようとすればするほど 強く浮かんでくる

 

ああ 貴方は幸せだ

こんなにも 愛されて

ああ 僕は不幸だ

こんなにも 愛しているのに



22.浜辺に一人

 

浜辺に一人 お似合いさ

こんなに広いのに

立っているのは 僕一人

 

海の向こうに君がいる

そんな気がする

海はあまりに広すぎる

僕はなすすべもなく 砂をにぎる

 

浜辺に一人 しようもないさ

君はいない

 

海の向こうに 君がいる

それを信じて 僕は泳ごう

どこまでも 行けやしない

力尽きるのは わかっている

 

でも この浜辺にいても

仕方がない

君はいないから

なら一層のこと

 

君を求めて求めて

そのまま 波間に沈んだほうが

どれほど楽かと

僕は海に突っ走った



23.たまらんなあ もう

 

たまらんなあ もう

すべて灰に帰しちゃった

あれほど苦労して築いた

あの街 この街

あの空 この海

きっとすてきな世界が

できるだろうと

夢見て 夢見て

気付いたら 皆 真っ黒け

 

たまらんなあ もう

何もかもなくしちまった

変な夢を追わず

あれも これも

あいつも こいつも

触れず 触らず

つきあっときゃ よかった

夢見て 夢見て

いつの間にか 一人ぼっち

 

たまらんなあ もう

何もかも 置き去りにして

一つの夢を追いかけて

そのときに

なってみりゃ

どれも これも

何も手に入っていなかった

考えれば考えるほど

悔いばかりの我人生

 

ところで

俺は変わりはしないや

なんて強がるのも 負け惜しみ

とやらに 違いあるまい



24.過去にしがみついて

 

過去にしがみついている男が一人

皆が明日の朝の光を浴びているのに

ぽつんと一人

日の暮れた街で別れを惜しんでいる

 

思い出に押しつぶされている男が一人

昔の女が忘れられなくて

何度も手紙を書いては破り捨て

その紙片を拾っては

セロテープでくっつけている



25.杯に口もつけたら吐きまくれ

 

杯に口もつけたことのない 僕だけど

もし酒が理性を失わせてくれるものなら

飲んで 飲んで 飲みまくりたい

そして 何もかも 忘れちまうんだ

 

君のことも もちろん 君とのことも

昨日までと全く違った世界に

僕は重い肉体を脱ぎ捨てて

飛んでいくんだ

 

どこでもいい どんなところでも

君がいる この世界よりは

君がいる この生き地獄よりは

 

酔っ払いをさげすんでいた 僕だけど

もし苦しみが悲しみを覆ってくれるものなら

吐いて 吐いて 吐きまくりたい

そして 何もかも 出しちまうんだ

 

君のことも もちろん 君とのことも

今まで大事にとっておいた思い出も

僕は汚物とともに 吐き出してしまうんだ

 

できることなら できることなら

君に関わるすべてのものを

僕から出してしまいたい

でも そうしたら

僕も残れやしないだろう



26.恋が盲目というなら

 

恋が盲目というなら

僕はそれと反対の端に立って

君を見ていた

憎しみに近いほど冷静に

欠点をあらいざらいに

 

何のためだったのか

君を理想に近く 育てるためか

注文を出しすぎたがために

せっかくの料理を台無しにしちまった

 

僕は君のそばにはいなかった

僕が立っていたのは愛の裏側

 

もう僕は何もいらない

青い空も 緑の大地も

春も秋も夏も冬も

命をも返していい

 

ただ一瞬 彼女の心のほんの一部に

僕の入る隙間を与えたまえ

そしたら 僕は

十字架にかかって死んでもよい



27.夢の中で貴方に

 

夢の中で貴方に会える

そこでも僕は 顔を伏せて

貴方をまともに見られない

愛することは 罪なのか

 

これまであれほど苦しんで

なおかつ 逃げられぬ

引け目を負うているかのように

自由なはずの世界でさえ

僕は貴方に近づけない

 

貴方の声がピーンと響いて

聞こえてきたから

びっくりして 目が覚めちまったい

それほどの切ない

僕の恋心

 

寝ちまった 寝ちまった

何もかも忘れるため 寝ちまった

皮肉だ 皮肉だ 何たる嫌味

夢の中にまで 貴方がいて

夢の中でさえ 僕は追いかけている

 

走っても 走っても 追いつけぬ

流れ星 

あ! 落ちた

僕はぐっしょり 汗をかいちまった



28.手紙を残したまま

 

手紙を残したまま

部屋を出てきた私

貴方の面影と

窓の外 流れる街の光

混ざり合っては 後ろに消え去る

 

明日からどうなるのか

わからないけれど

せめて今だけは 一人にしておいて

愛されて愛されてみたくて

夢追いに出かけた私

 

もう唄いたくない いくら

貴方のことを唄いつづけても

貴方はますます遠ざかっていく

忘れようと 唄うたびに

貴方は私の心にますます大きく

高まり轟く

 

さりとて唄わずには

この胸のせつなさ

投げ出すやり場がない

ああ 何とはや 憎しみ足りぬ

我が不条理の心よ



☆29.放課後の残照

 

窓際にぽつんと 貴方が座っていた

夕陽の残り光が 薄紅に頬を染めた

貴方はさりげなく 荷物をまとめ

帰り支度を急いでた

 

僕の気配にツゥーと 目を上げて

かすかに微笑み浮かべて顔をそらした

貴方はもの静かに席を立ち

うつむき加減に 出入口に歩んできた

 

静まり返った教室の中から

気づまりを追い立てるように

貴方は足を早めた

 

僕の横を通るとき 僕は黙っていた

通り過ぎたあと 少し経って

貴方が言った

さようなら



30.たとえ どんな姿で

 

たとえどんな姿で現れても

僕にとって 貴方以上の女(ひと)はいない

そう 長い歴史がそうする

僕の華かしい苦渋に満ちた日々と

共にあった女(ひと)

 

青春がまたと還らぬ今

僕の愛せる人も ただ一人

 

大人になるのを嫌った僕たち

今 一人になっても

そのクセは抜けやしない

 

なぜ なぜに 手が届かない

テーブルを隔てた

その向こうに 以前と変わらぬ

笑顔でいるのに



31.愚かな心

 

ああ 生命 捧げてもいい

この指が 貴方の髪に一本でも

触れられるものなら

 

ああ さようなら 恋しき人

貴方は消えても

僕は貴方から 立ち去れない

 

星の明かり うっすら窓辺にさして

僕の想いは 貴方の庭園をそぞろ歩く

眠れぬ夜の物思い

 

思えど 思えど 何ともならぬ

それを知りきわめていながら

思わずにいられぬ この愚かさ



32.眠り続けよ

 

いったい何の因果なのか

貴方はこの静かな夜

ぐっすりと眠っているだろう

はせども はせども

届かぬ この想い

 

いや 待てよ

貴方も もしや 寝付かれず

慕っているのではなかろうか

想い 結ばれようか

 

いや まさか

その相手が僕であることは

万分の一もあるまい

 

さらば 静かに眠り続けよ

いつまでも いつまでも

何にも 悩まず

誰にも 思いはせず



33.憎んでいいですか

 

ある人を憎んでいいですか

WHY

その人は僕の愛を踏みにじったのです

HOW

血へど出るまで愛の言葉を吐かせ

それをうすら笑いし 背を向けたのです

AND

僕は復習さえいとわない

憎みたいのです

FOR

僕自身のためです

己の愚かさに気付いたのです

AND

手段はないのです できれば

この片恋のつらさを

貴方にも知らしめたいのです

BUT

そうです できぬことはわかってます

彼女は気まぐれにも

僕を愛したりしない

仮にそうなったとしても

いや なるわけがないのです

AND

だから 貴方が僕に彼女を愛すべき

運命を授けたのと同様

憎ませてください

BUT

そう できないことはわかってます

誰よりも この僕には



34.満天下の戦士

 

もてるだけの力を出し切って

疲れ果てて 帰るとき

足は棒のように 痛みも感じず

ただシャリシャリと 雪氷の道を歩む

 

新たなる試練へと向かう

ほんの一時の休息もなく

戦士は歩き続けねばならぬ

 

その戦士は それほどまで疲れて

なおかつ 歩き続けられるのは

 

そう 戦士の目の前にぼうっと

黄色く広がる煙が

愛する人の顔を 浮かべているから

それを戦士はいつも見ているのだ

 

次の火蓋が切られる その刹那まで

戦士は愛する人にだけ

気力をもって一言 告げる

ほら 星が あんなにきれいだ



35.恋の戦士

 

いつの日か 報われん

いつの日か 報われん

戦士は祖国のためにという名のもと

愛する人のために戦った

己の愛を守り抜いて

命を懸けて戦った

 

それなのに あんまりじゃないか

命を懸けたこと 

それはそれなりの価値はあったさ

 

でも あんまりさ

愛が壊れちまった

何が残っているんだよ

君がいなくて どこに僕がいるのか

 

勝利を胸に秘めて

力尽きるまで 戦った

貴方を思い浮かべて戦った

 

戦に破れ 貴方は去り

僕に残るのは

あの苦しい行軍を支えてくれた

あなたの面影



36.一輪の花

 

あの切り立った崖っぷちに

一輪咲いた花を取ってほしいと君は言った

僕は君を知っていた

少なくとも君が僕を知っているよりは

 

あの崖の真下の岩に

幾人の前途が絶たれたことか

男の呪いがしみこんでいることか

 

あの花は枯れることを知らない

君にさぞかしふさわしい花だろう

 

さりとて 僕は弱虫だ

聞いた端から 足が震えている

 

あの花を君と思って摘んでこようか

それなら 少しは勇気が出そうだ

君はうなづいた

 

半ば上ったころだろう

あと少しと 見上げたところで

僕の体は空に投げ出された

 

一輪 花が見え

一時 君が見えた

 

それから ずいぶん長い時間たった

君の笑い声が 谷間に響いていた

美しく 快く 響いていた



37.海 SEA

 

 夜の海が好きなのです

 誰もが寝静まった この夜更け

 小言を聞いてくれるのは

 貴方だけなのです

 

 夜の海は静かなのです

 悲しみに沈んでいる人も

 眠れるように

 心地よい波を立ててくれるのです

 

 夜の海は哀しい色に

 染まっています

 どんな深い哀しみも

 引き受けてくれるのです

 

 夜の海は哀しい人にはわかるのです

 月の元に

 波が繰り返し悟すのです

 

 貴方の涙は砂にしみていく

 哀しみを引き受けて

 黙って耐えているのです



38.父

 

貴方は寝ている子犬が

かわいくて かわいくて

膝の上に乗せようと 抱き上げた

子犬が素直に尾を振り

やさしく自分を見つめ返してくれることを

心のどこかで期待しながら

 

しかし 子犬はうなった

噛みつこうとした

貴方をにらみ返した

 

貴方は怒った

決して愛が安っぽかったわけではない

愛ゆえに 真実が見えなかったのだ

 

子犬は子供よりも純真だった

ぶたれても 蹴られても 自分を主張した

あげくの果て 子犬は幼き息を引き取った

貴方は自ら掘った 気づまりの悪さに

背を向けた

 

妻に勝ち 子に勝った貴方も

この小さな魂にはかなわなかった

 

愛と思えばエゴである

犠牲と思っていた方が

まだ悲劇は救われる



39.思い出

 

思い出をこの世に残していく

たとえ肉体は滅びようとも

お互いの胸に分かち合った日は

貴方のものとなって 生き残る

貴方の命 ある限り

 

貴方が死んだら 僕の思い出など

何の要りようがあろうか

貴方の知らぬ僕の思い出に

今さら何の未練があろうか

 

後生なのは

貴方に対する僕の思い

 

これほど強いものが

果たして貴方の中で

どれほど 生き続けるのか

 

これほど強いものを

果たして貴方は

覚えていてくれるだろうか



40.砂浜にて

 

南海の孤島の砂浜に寝ころんで

毎日 海と空を見て暮らしていたいな

 

灼熱の太陽が 僕の体を照り焦がし

強烈なスコールで

僕の体から蒸気が上がる

 

熱にあげられ 雷に打たれ

肉体はボロボロになって

ポロポロにおちていく

 

白く固い精神だけが 感覚もなく

浜辺の砂の中に粉と砕け

混じっちまって ときたま

キラキラ キラキラ

輝いてくれればいいもんだ



41.幸と不幸

 

「心が開いているときだけ この世は美しい」(ゲーテ格言集)

 

とても明るいおじいさんがいた

おじいさんはいつも子供に言っていた

心をいつも開いていなさい

そうすりゃ、何もかもすばらしいものだから

 

子供たちにはわからなかった

すばらしいというのが何なのかわからなかった

しかし 子供たちは知っていた

すばらしさを体で感じていた

 

おじいさんは言った

いつまでもその心を忘れるでないよ

 

子供は聞いた

心ってどこにあるの

おじいさんは胸に手をあてて言った

ここだよ ここだ



おじいさんは余計なことをしてしまった

魚が水の中にいることを最後まで

気づかぬのと同様

子供たちにはわからなかった

それをあまりくどくどいうものだから

子供たちは思った

 

胸のところに心というものが入っていて

それを開くと とにかくよいんだ

幸せとかになれるらしい

 

子供たちは幸せを知らなかった

幸せなど健康と同じで持っているうちは

気づかぬものだから



ある日 おじいさんが不幸になった

病いを患い 床についた

子供たちはよろこんだ

自分たちの中には

誰も幸せを喜ぶことのできる

不幸なことがなかったからだ

 

おじいさんはすっかり無口になって

子供たちをうらやましそうに見ていた

 

子供たちには的ができた

待ちかねていた的ができた

 

おじいさんがフラッと立ち上がった

その一瞬 一番大きな子供がナイフで

おじいさんの胸を突き刺した

赤い血が噴き出した

皆がどっと喚声をあげた




42.一枚の銅貨

 

ある落ちぶれ貴族が

街角で銅貨一枚を拾った

彼は手持ちぶさな時間を少しでも

つぶそうと 近くの賭博場に入った

 

彼はその一枚をルーレットの黒においた

紳士、淑女、見物客のうち

彼同様、貧しい野郎は笑った

銅貨一枚ぐらい 誰でも持っていたからだ

 

その一枚が二枚になったとき

笑いも二倍になった

その二枚が四枚になったとき

その四枚が八枚になったとき

笑いは半分ずつになり

その八枚が十六枚になったとき

ほうーっというため息がもれた

 

彼は銅貨を銀貨に代えた

見物客は彼の後をおって

隣の台に移った

そこでやっていた 紳士、淑女は

銀貨一枚 彼がおいたのをみて笑った

 

そして同様

笑い声は ため息に代わり

彼は銀貨を金貨に代えた

 

次の台で彼は金貨一枚を置いた

誰も笑わなかった

そこでやっていた紳士、淑女は

こんな男に大勢の見物客がいるのが

腑に落ちなかった

 

彼の金貨が二倍ずつ増えるにつれ

人々は畏敬をもって

彼を見るようになった

 

彼が目をあわせた紳士は

照れ笑いをし 淑女なら

コクリと頭を下げるのだった

 

彼は持ち金全てを毎度賭けていた

彼は考えていた

どうせ銅貨一枚だったんだ



皆は彼の度胸と運を褒めていた

彼のテーブルに金貨が積み上げられていった

後から来た観客は

どこの王様であろうかと思い始めた

 

支配人は恐れおおくも

一張羅の彼に タキシードを差し出した

彼の心の中は平静だった

確率は銅貨一枚のときと

変わっていない

 

まわりで騒いでいる人間どもが

バカらしく見えてきた

 

彼は少し眠ってしまった

観客に囲まれ 息苦しくなったし

何より昼間からぶらついていたから

疲れたのだ

その間も勝負は続いていた

誰かが彼の賭け方で代行してくれたのだ

 

一段と高く上がった

まわりの歓声で 彼は目を覚ました

みると机の上に 山というほど

金貨が積んである

 

支配人が恐る恐る頭を下げて願い出た

「すみません

次の一回に勝たれると 店がつぶれます

どうか引き取り願えませんでしょうか」

 

彼ははじめて金貨の山を

自分のものとして計算しはじめた

奇跡的な確率で 勝ち続けて

これが全て己のものなのだ

 

彼は欲に目がくらみ冷酷な眼になった

観客の声に応じる英雄として

使命に燃えていた

 

ルーレットは止まった

 

彼は紳士淑女にあざけ笑われ

身包みはがれ 放り出された

 

彼は落胆して家に帰った

妻と子供がいつもの笑顔を向けて迎えた

 

彼は使命を思い出した

この妻子を食わせることだ

妻はあまりにしょげている夫をみて

何があったのかと聞いた

彼は答えた

 

いや なに せっかく拾った銅貨一枚

ルーレットで取られちまった

そんなことで と 妻と子供は

貧しさも逃げていくかと思うほど

大笑いをした

彼も一緒になって笑った



43.保存法

 

百姓が野菜を長持ちさせようと思案した

 

太陽は 日干しにすればよいといって 熱をくれた

海は 塩焼きにすればよいといって 塩をくれた

山は 缶に詰めればいいといって 鉱石をくれた

大地は みそに漬ければよいといって 大豆をくれた

 

その娘が その感激を いつまでも残したいと考えた

 

日干しにしてしまっておいた感激は

すっかりあせたものとなった

塩漬けにして ずいぶん苦くにがいものとなった

缶詰めにして 加工された新鮮味のないものとなった

みそ漬けにして 加工された新鮮味のないものとなった

 

いつのまにか その感激は 発酵して想い出となった



44.砂山と波

 

幼子は波打ち際に

砂をもって 山をつくる

波が来るたびに

そのふもとは とけ 山は崩れる

 

少し年上の 兄弟たちは

波の届かぬところに 山をつくる

 

波は舌打ちをしながら

やってきては 引き下がる

その腹いせにか 幼子の山を

一気に飲み込んだ

 

少し年上の 兄弟たちは

消えた幼子の山を笑っていた

 

幼子は 口をとがらせたか

べそをかいたか

 

いや にっこりと笑って

また 山をつくり始めた

波うち際に



45.月と太陽

 

月があんなに奥ゆかしく輝くのは

きっと 太陽を待っているからでしょう

 

太陽は純情すぎるから

あんなに熱くなるのです

月に惚れているからでしょう

 

それなのに それなのに

月の方から輝くときはないのです



46.生と心

 

祭りが終わった

夕陽が沈んだ

涙がこぼれた

 

あまりに重かったので

中をのぞいてみた

からっぽだった



47.希望

 

この世は闇に覆われている

でも あそこを見よ

 

丸く切り抜かれ 光がもれている

よくよく見よ

小さな穴からも 絶えず光がもれている

 

だからこそ

こんなに 足下が明るいのだ

ほら水たまりの中にも

希望がある

 

手でつかもうとしても壊れるから

自分の心の中に

ゆっくり 写しなさい